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■ 正午過ぎ 東京上空、なんとか曇り
彼女のお母さまから電話で知らせを聞いた後、ベランダへ出た。
もう冷めてしまった珈琲を飲みながら、煙草を吸おうとしたけれど、 うまく肺の中に空気が入ってこなかった。人は、混乱しすぎると、 何も考えられなくなる。正午すぎ、空はどんより曇っていた。
トレーニングウェアに着替え、ジョギングシューズを履く。 記録会をしている陸上競技場の様子を少しうかがった後、落ち葉に覆われた ロードを走り始めた。いつもの公園(中島飛行場跡地)に着き、準備運動を してから、芝生の上を走る。厚いソールを通して、足の裏に土の感触がした。 フィールドでは、子どもたちがサッカーの試合をしている。
「本気やの? そんな走ったら、心臓止まるんちゃうん? ムリしたらあかんで。まだまだ時間あるんだからさ」
私はまだ、彼女に走り始めたことを、伝えていなかった。 でもきっと、彼女に言ったら、大きな目をさらに大きく見開いて、 低いハスキーな声で、笑いの要素がたくさん詰まったあの声で、 こう続けただろう。「ほな、私も応援いくわ。ゴールで待ってる」と。
一時間のトレーニングを終えて、水飲み場で顔を洗う。 見上げると、雨雲が厚く空を覆っていた。まだ雨は落ちてこない。
「東京上陸間近。また派手に嵐を連れて行くから覚悟してね」
彼女が東京に来るときは、いつも雨だった(そして↑なメイルをくれた)。 それも、しとしとという淑やかなものではなく、バケツをひっくり返し、雷鳴を かき鳴らすほどの大雨。彼女の旅行鞄には、いつもピンクの折りたたみ 傘が常備されていた。10年前からずっと、同じ傘を使っていた。 「物持ちがいいのよ」と笑いながら、その鮮やかな色の傘をさしていた。
軽くジョギングをしながら家へ帰る。 シャワーを浴びて着替え、ベランダに出る。 せき止めていてくれてありがとう。やっと雨が落ちてきたよ。
2003年11月03日(月)
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