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■ メランコリーの色合い
朝目覚めたとき、私はわさわさした羽毛布団にしっかりくるまっていた。 フローリングの床に触れた足が瞬時に冷やされるのを感じ、季節のうつろいを知る。
お湯をわかしているガス台のそばに立ち、夏は行ってしまったんだ、と実感した。 そのままお湯が沸くまで、赤いやかんのおしりを熱する炎を見ていた。 台所から見えるベランダの空は、メランコリックな灰色をしている。
暦には月日を表す数字が書かれているし、天気予報は気温だの降水確率 だのを毎日教えてくれるけれど、「季節」という曖昧なものに線引きをするとき、 私は自分の肌感覚の方をだんぜん信頼している。そして今日、秋になった。
この秋初めてブーツを履いた。それに、あたたかいカーデガンも。 つい先週まで素足にサンダルを履いていたのに、今週はくるぶしもすっぽり 包み込む、黒くしなやかな革のブーツ。靴下を履くとき、親指のペディキュア が剥がれているのに気がついた。ちょっとためらったけれど、季節の名残を ひきずっているようでいたたまれなくなり、除光液で十本ぶんすべて落とした。
未練がましさは嫌いだ。思い出に縛られるのも、鬱陶しく感じてしまう。 過ぎたことはそれとして、すべて記憶の引き出しに仕舞っておけばいい。 ひとつひとつ丁寧にたとう紙に包み、いつでも取り出せるようにして。 もちろん、時折それを取り出して眺めるのも自由だ。でも、女々しい男みたいに、 ずるずる引きずられるのはごめんだ、と思っている(勝手な女です)。
「姉さま、秋の夜の空気だっ」
久々に顔を出した妹ちゃんが、隣で嬉しそうにストールを巻きつけている。 さっきまで変な音程の歌を(大真面目に)歌っていた彼女も、季節の移ろい に敏感で、自分の肌感覚に正直な女の子だ。そして、ひとつひとつの季節を ちゃんと楽しむ。それは、生きていく上で、とても喜ばしい素質だと思う。
そうそう、秋の夜空にもオレンジ色の火星がまたたいていますね。
*寒くなると分け合いたくなるもの。ココアとか肉まんとか、体温とか (mamigon)
2003年09月23日(火)
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