月のシズク
mamico



 メランコリーの色合い

朝目覚めたとき、私はわさわさした羽毛布団にしっかりくるまっていた。
フローリングの床に触れた足が瞬時に冷やされるのを感じ、季節のうつろいを知る。

お湯をわかしているガス台のそばに立ち、夏は行ってしまったんだ、と実感した。
そのままお湯が沸くまで、赤いやかんのおしりを熱する炎を見ていた。
台所から見えるベランダの空は、メランコリックな灰色をしている。

暦には月日を表す数字が書かれているし、天気予報は気温だの降水確率
だのを毎日教えてくれるけれど、「季節」という曖昧なものに線引きをするとき、
私は自分の肌感覚の方をだんぜん信頼している。そして今日、秋になった。

この秋初めてブーツを履いた。それに、あたたかいカーデガンも。
つい先週まで素足にサンダルを履いていたのに、今週はくるぶしもすっぽり
包み込む、黒くしなやかな革のブーツ。靴下を履くとき、親指のペディキュア
が剥がれているのに気がついた。ちょっとためらったけれど、季節の名残を
ひきずっているようでいたたまれなくなり、除光液で十本ぶんすべて落とした。

未練がましさは嫌いだ。思い出に縛られるのも、鬱陶しく感じてしまう。
過ぎたことはそれとして、すべて記憶の引き出しに仕舞っておけばいい。
ひとつひとつ丁寧にたとう紙に包み、いつでも取り出せるようにして。
もちろん、時折それを取り出して眺めるのも自由だ。でも、女々しい男みたいに、
ずるずる引きずられるのはごめんだ、と思っている(勝手な女です)。

「姉さま、秋の夜の空気だっ」

久々に顔を出した妹ちゃんが、隣で嬉しそうにストールを巻きつけている。
さっきまで変な音程の歌を(大真面目に)歌っていた彼女も、季節の移ろい
に敏感で、自分の肌感覚に正直な女の子だ。そして、ひとつひとつの季節を
ちゃんと楽しむ。それは、生きていく上で、とても喜ばしい素質だと思う。

そうそう、秋の夜空にもオレンジ色の火星がまたたいていますね。


  

*寒くなると分け合いたくなるもの。ココアとか肉まんとか、体温とか (mamigon)

2003年09月23日(火)
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