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■ 月のしずく
朝のラジオで「月と火星が大接近します」と云っていたのを思い出し、 辺りが暗くなった頃、ベランダから東の空を見上げてみた。
ほぼ満月にふくらんだ月の、七時四十分の方角に、赤く光る点があった。 目視だと、ほんの数センチほどの距離。「アゴの下のほくろみたい」と思った。 歩いて15分ほどの、遅くまで開いているスーパーマーケットに食材を買いに行く。 昼間の熱がわずかに残ったアスファルトを歩いていると、無性に喉が乾いてしまい、 スーパーの手前のマクドナルドで、氷の入ったのみものを買った。
再び外に出た頃には、月が火星をすっぽり隠していた。 通りを隔てた中華屋さんの若い兄ちゃんたちが、白い上っ張りと長靴を履いたまま、 ふたり並んで月の方向を眺めている。その光景がちょっと面白くて、私は、 月と兄さんたちを交互に眺める。彼らは二言三言交わしてから、ひとりは厨房に、 もうひとりは配達のバイクに、それぞれの業務に戻っていった。
買い物から戻り、遅めの食事(肉野菜炒めと杏仁豆腐)を終え、煙草を持って再び ベランダに出ると、今度は月の四時二十分の方角に、火星が顔を覗かせていた。 あまりに月と近づいているので、その大きな方(月)を主体としての表現が次々 に浮かんでくる。「月のヨダレ」とか、「月のほくろ」とか、「月のハナクソ」とか。 こんなに美しい夜景を前に、出てくるのはどれもが美しくない表現ばかなので 我ながら日本語能力のなさにあきれる(苦笑)
夜中にメイルの着信音で眼がさめる。 「マミゴン。月のしずくみたいだね」
その完璧な表現が、この日記のタイトルだと気が付いたのは、 月も火星も消えた、まっさらな朝になってからだった。
2003年09月09日(火)
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