|
|
■■■
■■
■ あなた好みのチーズケーキ
激しく雨が降る明け方、妙な夢を見た(私はよく妙な夢をみる)。
私は母と駅近くのホテルに泊まっていた。 無性にケーキが食べたくなって、財布だけ掴んで街へ出た。 街路に備え付けられた背の高いアナログ時計の針は(時計は、白い文字盤に アラビア数字が記されていた)午後九時過ぎを指していた。偶然出会ったトモダチ に「この時間に開いているケーキ屋さんはない?」と尋ねる。彼女たちは、 「駅ビルにならあるよ」と教えてくれた。私は駅の方へと駆けていった。
駅ビルの店は既に殆どがシャッターを下ろしていた。 地上二階、地下一階建てのその駅ビルを、急ぎ足でケーキ屋を求めて彷徨う。 二階の改札へと続く催事場へ近づくと、床にたくさんの毛糸のようなものが ばら撒かれているのに気が付いた。くすんだ色めの、寸断された毛糸だった。
その上を通り過ぎようとしたとき、右外腿に鋭い痛みが矢継ぎ早に走った。 何?なんなの?ぎょっとして立ち止まると、床の毛糸がもくもくと立ち上がり ごわごわとした犬や猫のような形状に変化した。その妙な生きものたちが、 私の両足にまとわりつく。すると、彼らが私の足に触れるたびに、ビリッと 電気のような痛みが走った。指でそれに触れようとすると、またビリリッ。
店員のようなおじさん(まるでダフ屋の服装だった)が、私の側に寄ってくる。 「その動物たちはね、静電気に反応するの。おねえちゃんのそのセーターだよ」 見ると、私はブルージーンズに金糸混じりのセーターを着ていた。 その間にも、私の両足にはビリビリと静電気の痛みが走る。
急いでその空間を離れると、犬のような、猫のような毛糸の動物たちは、 ちれじれの毛糸に戻り、床は毛糸がばら撒かれた元の状態に戻っていた。 痛む足をさすりながら、一階へ下りる。コーナーには水色の店があり、 電気も半分落ちていた。店長のような男がテーブルの上で売上金を数えている。
私はおそるおそるショーケースを覗いた。 そこはチーズケーキ屋で、硝子のケースには売れ残ったケーキがあった。 白い紙に書かれた商品名をひとつひとつ読んでゆく。その瞬間、これだ!と思った。
「あなた好みのチーズケーキ」
それは巾着形の薄い卵色をしたケーキだった。私は勝手にその断面図を想像する。 下層部がしっとりとしたチーズケーキで、巾着が絞ってある部分に生クリーム とベリー系のソースが混じっている。ぜったいそうだ。そうに違いない、と確信する。
私はレジに急ぎ、「あなた好みのチーズケーキをください」と水色の制服を着た 若い店員に云う。わくわくしながら水色のケーキ箱を受け取ったとき、眼がさめた。 ベットの上の私の手元には、もちろん、チーズケーキが入った箱などない。 私は、とてもとても、それは言葉に表せないくらいに落胆した。
静電気に反応する毛糸の動物たちと、チーズケーキの因果関係はもちろん不明だが、 痛みに耐えた後のご褒美とするなら、「あなた好みのチーズケーキ」なんて最高 なのに、と、いつまでもベットの上で悔しがってしまった。だって、好物ですもの。
2003年08月27日(水)
|
|
|