月のシズク
mamico



 残り香

夕方、妹ちゃんが顔を出した。
8月に入ってから、研究棟は人もまばらで、どこもかしこも閑散としている。
パタパタと忙しそうに雑事を片付けてから、それとなくベランダに誘われた。

「空にふわりとシャーベットみたいな半月。美味しそう」

この子は本当にいい表現をする、と思いながら空を仰ぐ。
闇が降りてくる、一瞬前の青い世界を、ふたりで見渡す。
昼間の熱を含んだ、生ぬるい空気までもが、青に染まっているようだった。

他愛もない近況を交換し合い、「お先に」とドアから消えていった。
部屋の中には、エルメスだかシャネルだかの、彼女の香水の匂いだけが残っていた。

毎年、8月6日は、約束されたように、よく晴れる。
今朝テレビで見たヒロシマの映像も、突き抜けるほどの青空だった。
そして今年も、午前8時15分に、世界の人々と共に一分間の黙祷を捧げた。

2003年08月06日(水)
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