月のシズク
mamico



 兄妹という関係性

兄が帰ってきた(From JAMICA)
ただ単純に、その事実を嬉しくおもう。
彼のジャマイカ行きが決まったときと同じくらい、その事実を嬉しく思った。

私は妹なので、生まれたときから兄がいた。
彼がいたことを恨めしく思ったり、疎ましく感じたことは、ただの一度もない。
長男体質の責任感を持ち、少々要領が悪く、でも女にはとことん優しい兄。
あの両親から生まれてきたのが、私ひとりじゃないことを、いつも心強く思っている。

「ちょっと早いけれど、誕生日プレゼント」
バックパックの中をがさごそとまさぐり、オレンジ色の小箱を渡された。
茶色のリボンをほどくと、レンガ色に白のステッチが入った腕輪が出てきた。
私は、妹らしく、小さな嬌声をあげる(少し前にお気に入りの腕輪を失った
ばかりだった。しかし、兄はもちろん、そんな私の過去を知らない)

寝室も台所もひっちゃかめっちゃかにして荷物を広げ、一通り片付けが済むと
もう深夜一時近かった。「ビールのみたいな」と、バスタオルで濡れた髪を拭き
ながら云う兄に、「コンビニは、出て、左」と答える妹。「やっぱりね」と目尻に
やわらかな皺を刻んで、彼は濡れ髪のままサンダルをつっかけて外にでた。

ふたり並んでベランダで立ったまま、ぐいと、缶ビールをのむ。
外は細かい雨が降っていて、彼は「東京は寒いな」とひとりごちる。
(そりゃジャマイカと比べたら、ねぇ/苦笑)
ビールが空になるまで、私たちはベランダで梅雨の夜空を見ながらひっきりなしに
喋る(兄の日本語はスロウになっていた)。10年前にふたりで住んだいた頃も、
私が帰省してみんなが寝静まった静かな夜も、去年ふたりでN.Yを旅したときも、
いつもこうやって並んでビールをのんでいたような気がする。

【きょうだい】というものは、底抜けの信頼によって成り立っているのかもしれない。
許す/許さない、だとか、疑う/信じる、とか、そういう観念を必要としない関係。
どちらかが行為したり、言葉にしたりした時点で、互いにオーケーを出し合う
関係。最強にして、最適な味方。もはや、何かを隠すなんてバカげている。

つまり、だ。私は、兄がいて、本当によかったとおもっている。
(兄は、妹の存在を喜んでいるかは疑問。そんなこと、恐ろしくて訊けやしないよ)

2003年06月23日(月)
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