月のシズク
mamico



 週末ガイド/「カエルはかえる」

先週末、二泊三日で実家に帰ってきた。
アメリカ人の女性を一週間、ウチでホームステイに預かっていたのです。
「アナタもちょっと来なさいよ」との母の電話に、すごすご出向く優しい娘(笑)

なんというか、久しぶりの田舎生活、楽しかったです。
外国人の方と過ごすと、好奇心旺盛な彼女の視点から眺められた我が故郷を、
同じ視点で見つめ直すことができるわけで。すると当然、発見、感動も多いわけで。

パーティで母、娘、ムスメ(sisiter)で(音痴にもかかわらず)輪唱したり、
山里の菖蒲園に連れて行ったり(突如として出現した巨大アイリス畑!)、
日本の伝統芸能を鑑賞したり、海までドライブしてビーチを散歩したり。

縁側に座って、祖父の庭をふたりで眺めていたとき。
母が「なんでここにカメやカエルの石像があるとおもう?」と、枯山水にちょこん
と置かれた静物たちを指さした。わたしが子どものときからいる、小さな生き物。
苔がむして、本物みたいな甲羅を持っているカメくん、緑のカエルくん。

「カメはね、日本ではトクベツな意味を持つ生きものでね。
 鶴は千年、亀は万年生きるという、長寿の象徴なのよ」
「カエルは?」と、彼女が訊く。
「カエルはかえる」母は日本語でつぶやき、私に(訳せっ!)と視線を流す。

私はしぶしぶ、口を開き、母国語でない言葉を声にのせる。
「日本語のカエルという言葉には、名詞と動詞でそれぞれの意味があるの。
 名詞はフロッグ、生き物の、あのカエルね」と、庭のそれを指さす。

「動詞のカエルは、リターンの意味。カムバックの意味。ここに帰ってきますよ、
 という意味。だからね、アナタもここに、いつでも帰ってきていいのよ」

きっと、私の翻訳は間違っていたのかもしれない。
でも彼女はひと呼吸置いて、大きなグリーンの目を見開き、
「私もここに帰ってくるから」と、ぎゅっと私を抱きしめてくれた。

彼女にとって初めての日本、初めての空間。
この土地で、この庭で感じたことを、ずっとずっと憶えていて欲しい。


2003年06月18日(水)
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