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2012年09月19日(水)
やなせたかし先生が語る「とびぬけて成功したキャラクター」

『人生、90歳からおもしろい!』(やなせたかし著/新潮文庫)より。

【ところでインタビューの時に必ずといっていいぐらい聞かれるのは、「今までつくってきた多くのキャラクターの中で何が一番好きですか?」という質問で、これが実に答えにくい。
 なにしろアンパンマンシリーズだけで2300ぐらいある。このすべてにそれぞれ思い入れがあるから、どれかひとつにしぼると他のキャラに嫉妬されるじゃないですか。
 どれが好きとはとても言えない。キャラは全部自分の愛する子どもたち、運、不運、売れる売れないがあって、一度だけで消えてしまう短命の者もあるが、作者としてはみんな可愛い。
 しかし成功したキャラということになると、アンパンマンは別格としてやはりバイキンマンがとびぬけていますね。
 最初にはただ敵役をつくろう。食品の敵だからバイキンだろうとごく軽い気持ちで蠅を擬人化したような感じで描いたのです。
 バイキンが敵役で登場してメーンキャラをはっているのは世界中でアンパンマンシリーズだけではないのかな?
 ところがこれがズバリ適中!
 なぜかといえば、生きるということはバイキンとの戦いを避けて通ることは不可能!
 それではバイキンを全滅させればいいのかといえば、その時は人間そのものも死滅してしまう。パンも酵母菌、イースト菌がなければつくれない。しかしインフルエンザ菌とかいろいろ怖いバイキンもいて戦わなくてはいけない。健康であるということは善玉菌と悪玉菌のバランスが良好な状態。
 これは国家の成立についてもいえることで、独裁、専制はファシズムの危険がある。
 だから、アンパンマン対バイキンマンの戦いは永久にくりかえされるわけで、そこにバイタリティーが生まれる。】

〜〜〜〜〜〜〜

 『アンパンマン』シリーズには、2300もキャラクターがいるということがすでに驚きです。
 まあ、かなり強引にキャラクターにしているようなものもあるのだけれども。

 「アンパンマン」はたしかに「別格」として、やなせ先生にとて、その次に「とびぬけて成功したキャラクター」は、「バイキンマン」。
 言われてみればたしかにその通りで、「アンパンマン」がこんなに長い間人気を持続しているのも、「魅力的な敵役」のおかげではあるんですよね。
 子どもと一緒に『アンパンマン』シリーズの絵本を読んでいると、バイキンマンがほとんど同じパターンで悪さをして撃退されるのですが、どんなに酷い目にあっても、アンパンマンはバイキンマンを「撤退」させるだけで、「絶滅」しようとはしないのです。
 逆に、バイキンマンのほうも、アンパンマンにしょっちゅうちょっかいは出しているけれど、存在を消してしまおうとはしていないように見えます。
 大人からすれば、ちょっと「ぬるいな〜」なんて考えてしまうところもあるのですが、『アンパンマン』の世界には、やなせ先生の「バイキンとは戦わなければならないけど、全滅させるわけにもいかない」という考えが反映されているのでしょう。

 いやほんと、海外に旅行すると、よく日本の子どもと接する大人たちは、かなりの高確率で、お別れのときに「バイバイキ〜ン」をやるんですよね。
 そして日本の子どもたちには、ほぼ鉄板でウケるのです。
 こんなシンブルかつオヤジギャグみたいなフレーズがなんでここまで愛されているんだろう……と内心疑問でもあるのですが、バイキンマンというのは、ある意味、アンパンマン以上に「愛されている」のです。
 たしかに、「もっとも成功したキャラクター」と言えますね、ほんと、敵役って大事だ……