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2008年09月22日(月) ■ |
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「『機動戦士ガンダム』は不人気で打ち切られた」という「定説」の嘘 |
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『BSアニメ夜話 Vol.02〜機動戦士ガンダム』(キネマ旬報社)より。
(名作アニメについて、思い入れの深い業界人やファンが語り合うというNHK−BSの人気番組の「機動戦士ガンダム」の回を書籍化したものです。この回の参加者は、岡田斗司夫さん(作家・評論家)、乾貴美子さん(タレント)、北久保弘之さん(アニメ演出家・監督)、有野晋哉さん(タレント)、福井晴敏さん(作家)、小谷真理さん(評論家)、井上伸一郎さん(元アニメ雑誌編集者)、氷川竜介さん(アニメ評論家・ライター)です)
【岡田斗司夫:あの、『ガンダム』の打ち切り、あれってどうだったんですか?
氷川竜介:え〜っとね、スポンサー事情とか低視聴率とか言われているんですけど、人気はね、あったんですよ。雑誌はバカ売れしていたし、僕は放映中からレコードの仕事をやらせてもらっているんですけど、最終回の放映前に台本もらってドラマ編の構成作れと言われていましたから。それくらいレコードもバカ売れしていたし。だから、おもちゃを買う人たちに人気がないけど、いわゆる今で言うハイターゲットのところには『ガンダム』いけてるじゃん、というようなギャップの中で、放映のためのスポンサーとしては玩具が売れないから続けられない。だから人気がなくて打ち切りという説は間違いなんですよ。人気はあったんですよ。
岡田:人気はあったけれども、本来だったら、そのスポンサーとなる企業(の商品)を買い支える人たちじゃなかった?
氷川:なかったんですよ。だから、そこにターゲットを組み替えて、もう一回劇場版で勝負しようということは、テレビ版終わってすぐにチャレンジされているはずなんですよ。
井上伸一郎:主に大学生中心にね……。
氷川:そうそう。高校生、大学生くらいだったら、この話の内容を分かるでしょ、ってことで。
岡田:あの当時、同時発売していたオモチャって明らかに子供用の、メッキのパーツがいっぱい入っていたんですよね。
氷川:ガンダム、銀色だったんですよね。その頃、白じゃなくて。そこら辺でもちょっとギャップとか色々あって。
(中略。以下は各参加者が、それぞれ『ガンダム』の好きなシーンを紹介する、というコーナーでのやりとりの一部です)
乾貴美子:北久保さんはどうして、このシーンを選ばれたのですか?
北久保弘之:あの、『ガンダム』というお題で、今日呼ばれたわけですけど、基本的に「ガンダムって何?」というところで、ガンダムって結局”ガンダム”なんですよね。主役として色んなキャラクターが出てきて、色んなガンダムが作られていくわけですけども、今を持って続いている主役って誰? といったら”ガンダム”でしかない。そのガンダムが一番最初に活躍する、バシッと決まった絵を見せるという。あの顔を起こして、目が光る。あの1カットが、この延々と続いている「ガンダム」という作品の主役の位置づけを決めた、と確信しています。
岡田:いわゆる兵器としてのリアルロボットとよく言われるんですけれども、その割には昔ながらの……何だろう? 『マジンガーZ』風のお約束、全部守りますよね。
北久保:そうですよね。
岡田:あの、目が光るとかですね、ポイントポイントで。
井上:最近放送された『ガンダムSEED DESTINY』という最新作があるんですけど、その第一話でも、やっぱりザクウォーリアというのが立ち上がって同じことをやるんです。目が光って、あとブワ〜っとココ(胸)から排気煙を出して。
岡田:ガンダムのシリーズはそうでなくてはいけないという。
井上:そうそう。やっぱり、その辺のお約束は踏襲している。
有野晋哉:何か、僕、さっきの斬って止まるところあるじゃないですか。あれが、監督に一回会わしてもうて、しゃべらしてもうたときに、あそこが好きですって言ったら、「あれはね、本当は全部動かしたかったけど、当時のセル画を描いていた人が、そんな風に動くことはできへん、と言われて、で静止画になった」(と冨野監督に言われた)。
岡田:あ〜。
有野:そうなんすか? 全部、その……一話でガンダムが動いているのも、実際、スポンサーである玩具会社が、その「一話で動かさんとロボットアニメ、ちゃうやないか」と言われて無理矢理動かして、後から”ニュータイプ”とか考えた、って。けっこうショックなこと、いっぱい言われましたよ。
乾:(笑)。
岡田:『ガンダム』は当時の日本サンライズ……制作の会社は本当に弱体で、もう週に1本のテレビシリーズでアニメを作るなんて、とても無理無理というところに、冨野さんがやりたいこと、夢とかをだーっと持ち込んだもので、だから色んなところがギクシャクして無理が出ている。その分、すごい良いは良いんですけど、本当は富野さんの中では一話はもっと動いているんだろうと思うし。モビルスーツのデザインも後半出てくる奴はもっとかっこいいんだと思うし。
有野:ガンタンクは「だから入ったんですよ」という話を……(富野さんがされて)。当時のプラモデルが戦車ばっかりだったから。キャタピラがついている奴を出さなあかん、って言われて、ガンタンクが出来た。
岡田:最初、富野さんはガンキャノンくらいを主役にしたかったんだけれども、ガンダムに……もっと格好良くしろと言われて、やっぱりそこで曲がる。次に真っ白いロボットを出したい。主人公ロボットを本当に上から白いままでやっていくと、メーカーが途中で、やっぱり赤とか黄色とか入れろ、と言ってきた。なので安彦(良和、「ガンダム」のキャラクターデザイン担当)さんが「わかりました。入れればいいんですね」と、ここら辺(腹の辺り)にちょいちょいと赤と黄色を入れると、あっという間に三色っぽく見えたとか、色んなのが氷川さんが書かれた本には出ているんですよ(笑)。
氷川:また、そんなことを……僕はそんな「ちょいちょいと」なんて言ってないですよ。……ちなみにガンダムの色というのは、安彦さんが頭から足まで決めたのは間違いないです。でも、それは玩具メーカーというよりは、企画部門に対しての綱引きで、やっぱり三原色入んないと子供にウケないという、それまでのマーケティングリサーチに基づくセオリーがあったからです。それに反発した安彦さんが一晩持って帰って、自宅にあったセル絵の具で、白をメインに塗りなおしたっていう話は聞きました。明らかにちょいちょいじゃないですよね(笑)。
一同:(笑)。】
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『機動戦士ガンダム』は初回放送時、人気がなくて打ち切りになった、という話は、ひとつの「歴史的事実」となっているように思われるのですが、当時『ガンダム』にかかわっていた人たちによると、『ガンダム』という作品は、リアルタイムでもかなり人気があったみたいです。 しかしながら、ここで紹介されている関係者の話によると、その人気があった世代が高校生〜大学生で、玩具の売上につながらなかったため、スポンサーとしては番組を続けることを望まなかった、というのが事実のようです。 まあ、いくらレコードやアニメ雑誌といった「関連商品」が大ヒットして、高校生や大学生に大ウケしていても、自社の商品の売り上げにつながらなければ、スポンサーとしては「やってられない」というのもよくわかります。 結果的には、その後の映画化や再放送によって『ガンダム』はより幅広い層に受け入れられることになり、スポンサーも「ガンプラ」と呼ばれておもちゃ売場に大行列を作ったプラモデル等の商品で大儲けすることになったのですが、当時としては「俺たちが金を出した作品で、他所の連中ばっかり儲けやがって!」というのが、スポンサーサイドの本音だったのかもしれません。 テレビ番組である以上、作品としての評価だけではなく、スポンサーにとってのメリットの有無というのは、非常に重要なポイントになるのです。
そして、ストーリーやキャラクターデザインにおいても、「マーケティングリサーチ」だとか「スポンサーの意向」がかなり反映されているということがわかります。 こういう「スポンサーの介入」というのは、あまりいい印象を受けないのですが、もし「スポンサーの意向」がなければ、「第1話では、全然ガンダムが動かない」とか、「ガンキャノンが主役」になっていた可能性もあったわけで、『ガンダム』という作品の成功には、綿密な世界観や斬新なキャラクターデザインだけではなく、「お人よしで、ちょっとだけおせっかいなスポンサー」の影響が大きかったような気がします。 結果的に売れたからいいようなものの、「子供向けアニメ」の時間に『機動戦士ガンダム』という作品にお金を出したスポンサーって、よほど先見の明があったのか、富野監督に騙されたのかのどちらかだとしか考えられませんし。
このやりとりを読んでいると、歴史的な作品であり、「ロボットアニメの革命」だと思われている『ガンダム』にも、今までのロボットアニメの文脈を受け継いでいるところがたくさんあるのだ、ということがよくわかりますし、大ヒットの裏には、関係者の努力に加えて、いろんな「偶然」も関与しているのだな、ということも伝わってきますね。
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