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2007年06月28日(木)
「『テトリス』というゲームに、人はどうして熱中できるのか分かりますか?」

『パラレル』(長嶋有著・文春文庫)より。

(作中に出てくる「有名ゲームデザイナー」の独白)

【あのころバイトを雇う面接の時に僕が必ずしていた質問を不意に思い出し、女にしてみる。
「テトリスというゲームに、人はどうして熱中できるのか分かりますか」というのだ。
「単純なルールだから」「ラインが消えるのが生理的に快感だから」「スリルがある」大体、そんな答えが返ってくる。どう答えても結局採用したが、僕は満足しなかった。
「シンプルでスリルがあるからでしょう」女もいった。
 テトリスは1ライン消すと100点が、4ライン消すと1600点が加算される。4ラインで400点ではない、そのことが面白さの源なのだと何故、誰も喝破しないのだろう。面白さはプログラムや映像が作ってくれるのではない、人間が恣意的に作り出すものだ。】

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 「テトリスというゲームに、人はどうして熱中できるのか分かりますか?」
 そう聞かれたら、僕はたぶん言葉に詰ってしまいます。上から落ちてくるブロックをうまく組み合わせて隙間なくラインを作ってブロックを消していく、ただ、それだけのゲーム。にもかかわらず、「テトリス」はパソコンで、アーケードで、ゲームボーイで、そしてニンテンドーDSでも時代を超えて大ヒットしているのです。
 しばらく悩んだ末に出てくる僕の「解答」も、やはり、「シンプルなゲームシステムと『テトリス』の快感」とかになってしまうのではないかなあ。

 このゲームデザイナーの「答え」は、僕にとってはすごくインパクトがあったのです。「4ライン一度に消したら1600点というルールにしたこと」というのは、ゲーム慣れしている人間にとっては、「そのくらいのボーナスは当たり前」だと感じることなのではないでしょうか?
 でも、実はこのルールが無ければ、『テトリス』は、ゲームとしてはかなり無味乾燥なものになってしまうんですよね。
 単純に『テトリス』というゲームを長く続けようと思うならば、地道に1ラインずつ消していくのが一番安全かつ確実な「攻略法」なはずです。もし、4ライン一度に消したときのボーナスや効果音が無ければ、みんなそうやってブロックを積み重ねていくことでしょう。
 ところが、『テトリス』の作者は、そこに「一度に4ライン消すことによる報酬」を付加することにより、『テトリス』に「ゲーム性」を加えたのです。
 待ちに待った直線のブロックが降ってきて、4ラインが一度に消える快感のために、多くのプレイヤーは、わざわざリスクを冒して「赤ブロック待ち」でブロックを積み上げます。それはゲームオーバーの危険性を高める行為ではあるのですが、だからこそ、それを達成した時の充実感もあるんですよね。
 どんなにゲーム機の性能が進化しても、そのゲームの「ルール」を作るのは人間です。どんなに素晴らしいグラフィックで飾ってみても「ルール」がつまらないゲームには魅力がありません。
 誰でも簡単に作れそうで、シンプル極まりないように見える『テトリス』も、その面白さは「偶然の産物」ではないのです。