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2007年02月09日(金)
角川春樹が語る、映画『蒼き狼』の製作費30億円の内訳

「日経エンタテインメント!2007.3月号」(日経BP社)の記事「映画プロデューサーに聞く〜角川春樹さん、『蒼き狼』の製作費30億円は何に使ったの?」より。

(2007年3月3日公開の映画『蒼き狼』の製作費30億円の使い道についての角川春樹プロデューサーへのインタビューの一部)

【角川春樹:いちばんかかっているのは4ヶ月のモンゴルロケの費用ですよ。スタッフ、キャストだけで300人はいますから、その宿泊代が大きい。撮影時期は夏だったんで、観光シーズンにぶつかってね。ホテル、飛行機代も含めて高くついた。

 役者はみんな同じホテルに泊めて、スタッフはまた別のホテルに泊めた。それぞれの部屋の値段は違うんで一概にはいえないけれど、仮に1人1万円で計算したとしたら、300人が4ヶ月泊まると、単純に3億6000万円くらいかかる計算になる。でもおそらくそれ以上はかかったはず。半月で1億円は超えてたから。
 それでもオールロケにこだわった理由は2つある。1つは画面の質感を統一すること。もし日本で撮影したら、湿気の違いなどで画面の質感が変わってしまうんだよ。
 もう1つはリハーサルが十分にできること。だから非常に団結心も強くなる。毎日食事の後は、俺の部屋に俳優を集めて、台本読みをした。そうすることで、役への理解度も深くなる。
 あとは馬を相当買い集めましたね。日本だとレンタルで1日最低10万円はかかるけど、モンゴルでは馬は買い取りで1頭当たり10万円くらい。でも売るときは3分の1くらいにしかならない。5000頭は撮影で使ったから、5億円くらいは馬で使ったかな。

インタビュアー:映画の中で圧巻なのは、チンギス・ハーンの即位式を描いたクライマックスシーン。大平原に2万7千人のエキストラを集め、総額1億円をかけて実物大のスケールを再現した。

角川:この即位式を撮るには3日間かけているからね。500騎の軍隊、300人のエキストラなどは、3日間現場にいるわけだけれども、即位式の撮影で使った1億円はそれとは別。撮影で2万7千人の群集を集めたのが1日で、そこに1億円かけたわけだ。これは取材陣用のチャーター、宿泊費も含めてだけれども。協力してくれたモンゴル軍にかかる費用や食事代などもかかる。それに2万7000人を輸送するだけで4時間以上はかかるから。だから450台のバスをチャーターした。
 あと今回は衣裳だけでも1億円以上はかかっている。ウランバートルの人口で把握できるのは大体70万人なんだけども、そのうちの単純に20万人以上の人が衣装作りに参加したんだから。
 CG全盛の時代に、なぜ実物にこだわるかというと、観客の目が肥えているからなんだよ。CGってうそっぽい感じがあるからね。奥行きがものすごく重要。
 ほかのプロデューサーと俺との差は、シナリオが書けて、演出ができるかどうかだね。例えば役者からこうしてもらえないかと言われたら、バーッとシナリオを変える。そして監督やスタッフとミーティング。そうするとお金をかけるべきシーンと絞るべきシーンが分かるから、お金のかけ方も変わるということだよ。】

〜〜〜〜〜〜〜

 このインタビューでの角川春樹さんの話を読んでいると、「お金を絞るべきシーン」なんて意識が本当にあるのだろうか?と疑問にもなってくるのです。なんだかもう、湯水のように撮影費を使うことそのものが角川さんの趣味なのではないかと思えてきます。僕はモンゴルの物価に関する知識はほとんど無いのですが、ホテル代も結構高いし、馬代もぼったくられているのでは……という気もします。「馬は買い取りで1頭当たり10万円で、売るときは3分の1」なんて、交渉次第でもうちょっと安く上がるのでは……
 もっとも、ハリウッドスターの場合、1作の出演料が20億円とか30億円というのも珍しくないようなので、役者ではなく見せ場のシーンや小道具にお金をきちんとかけるというのも、ひとつの「戦略」ではあるのでしょうけど。
 それにしても、この角川春樹さんの「偏ったこだわり」に、僕は正直驚いてしまいました。

 実は、僕は昨日映画館でこの『蒼き狼』の予告編を観たのですが、危うく飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになってしまったのです。チンギス・ハーンを演じているのは反町隆史さんなのですが、この映画では、チンギス・ハーンやその郎党たちを演じる日本人の役者たちが普通に日本語で喋り、合戦シーンは日本の戦国時代の戦いそのもの。いや、ハリウッド映画ではアレキサンダー大王だって英語で喋るのですから、これはもう映画界の「お約束」なのかもしれませんが、テレビのスペシャルドラマならともかく、30億円もの巨費を投じた日本映画でここまで徹底的に「ローカライズ」された作品というのは前代未聞なのではないでしょうか。『GTO』がチンギス・ハーンというのも違和感があるし、予告編の印象では、スケールが大きいだけのNHKの「大河ドラマ」みたいなんですよ本当に。自分たちの英雄が日本語で喋って、日本の戦国武将のような言動をしているのを観て、モンゴルの人たちは悲しくないのかなあ。これだけ人や馬に巨額のお金をかけているわりには、時代考証とか設定のリアリティに対するこだわりは、あんまり無いみたいなのですよね。まあ、エンターテインメントとはそういうものだ、と言われれば、返す言葉もありませんが……

 製作費53億円と小室哲哉さんの個性的な主題歌で話題になった『天と地と』という角川さんの作品も、興行収入100億円を叩き出して、最終的には黒字になったそうですから、角川春樹さんはちゃんと「お金は使っても、その分の結果は出している(ことが多い)」のですけどね。確かに、『蒼き狼』も、ちょっと観てみたい気もするものなあ。もちろんネタとしてだけど……