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2007年02月04日(日)
「ちなみに、我々の業界ではこれらをねつ造と呼ばず、”微調整””演出”と呼びます」

『週刊プレイボーイ』(集英社)2007/2/12(No.7)号の特集記事「TVはこんなふうに嘘をつく!」より。

(特集記事中の「下請けテレビマン懺悔”あるある”座談会」という記事の一部です。参加者は、中小番組制作会社のAさん、大手番組制作会社のBさん、フリーディレクターのCさん)

【B:ところでみなさん、ねつ造なんて正直、日常茶飯事でしょ?」

A・C:もちろん!

C:例えば、番組のコメント取り。信憑性を高めるために大学の先生とかに取材に行くんだけど、根底から覆されることを言われるなんてしょっちゅう。血液型の番組で脳の権威の先生に取材に行ったのに「血液型の性格診断なんて信じてません。脳の中で性格をつかさどる部分には血液は流れていない」って丁寧な説明で完全否定されちゃったり(笑)。でも、少しでも曖昧な答えがあれば、すかさず「いや、それはこういうことですよね。それを先生のお言葉でもう一度」って、こちらが引き出したいコメントに誘導尋問して、なんとか形にしてる」

B:今回の件での一番の失敗は、みんなが知ってる「納豆」に目を向けたことかな。誰も知らない食材を扱っておけば、へたに検証なんかされなかっただろうに(笑)。
「美容」と「健康」モノは怖いんだ。数字は取れるけど、視聴者はもう小さなことじゃなかなか驚かない。かといって、大きな発見を求めちゃうと今回のように無理が出ちゃう。
 ともあれ、視聴者の方々には「画面で外国人がしゃべってる映像には気をつけろ」ってことを言いたい(笑)。視聴者が検証しようがないということで、製作者側が勝手に訳してテロップ出してることもあるんだから。

A:じゃあ、なんでねつ造するかっていうと、カネも時間もないから。カネは、例えば『あるある』クラスだと最低1億円。テレワークの段階で5千万円。それを800万円くらいで下請けに振る。ロケとか取材には「ディレクター、カメラ、アシスタント」の3人ひと組で行くのが普通なんだけど、数年前は予算がそのひと組あたり1日14万円だったのが、今は8万円なんて額に下がってる。これで人件費だけじゃなく機材代・ガソリン代、それと会社の儲けを出さなきゃならないから、カツカツ。
 それで制作日数が延びると、その分費用もかかるから、その日で取材が終わるように無理して結論を作っちゃう。
 でも、だいたい、なんでもともと数千万円の予算を持つ番組が末端のたった数万をケチるのかがわからない。
 そんなことだから人員不足も深刻。請け負う番組数は増えてるのに、新人は3K仕事に嫌気が差してすぐ辞めちゃう。ちなみに、テレワークも離職率は高いですよ。

B:でも、制作会社の人間は局の人間に対して絶対「できない、おかしい」とは言えないしね。そんなこと言えば、会社は仕事外されるし、死にそうに苦労して下積みから這い上がった人間は、またツライADに格下げされちゃうこともある。ADって、相変わらず毎日寝れずに月給17万、先輩のパシリに合コンのセッティングっていう世界で、マジでつらいからね。

C:一方で局の人間って、会議と管理するのが仕事で現場を知らないヤツがらけ。そんなヤツに限って無茶な命令を出すんだよね。

――実際に、『あるある』以外で、みなさんが見聞きしたねつ造を教えて。

C:ある健康系番組でコンタクトレンズの恐怖を扱った時のこと。スタジオ収録に出演したタレントのコンタクトの汚れを調べたら、アイドルもお笑い芸人もあまり差が出なかった。そこで、お笑い芸人のものはワザと汚して、かつフォトショップでさらに修整。極端な差を作ったこともあったな。
 骨格の病気を扱った時も、医者が用意した症例写真がインパクトに欠けるので、オーバーに関節を曲げた写真を撮って差し替えたり。
 部屋のカビがテーマの時も、大物女優とお笑い芸人との部屋でそれぞれ採取したものを比べようとした。大物女優の部屋のカビが少なかったのはいいんだけど、お笑い芸人の部屋のものはスケジュールが合わなくて採取さえできなかった。だから、慌てて悲惨な生活をしてる番組ディレクターの部屋から採取。もちろん、カビはたっぷりでした(苦笑)。ちなみに、我々の業界ではこれらをねつ造と呼ばず、”微調整””演出”と呼びます(苦笑)。

B:飲酒運転追求番組でのこと。あれは居酒屋の駐車場とかで飲酒ドライバーに必要以上に強気に詰め寄ると、穏やかだったドライバーが「お前だった酒飲んで運転したことあんだろ?」って突っかかってくる。そしたらこっちは「1回もないです!」って言い切ってわざと挑発する。そうすると画面的にはヒートアップしていいんですよ。そういうテクなんです。
 それをやるディレクターだって、別の時には平気な顔で飲酒運転してますから。そいつは「大義が大切なんだ」って我々に説教しますけど、「やだやだ、信用できね〜」って思う。

A:これは報道系じゃなくてバラエティ系なんだけど、無名のお笑い芸人が世界中をヒッチハイクする番組あったでしょ。あれで芸人が現地の人と交流したりした。あそこで出てくる人たち、全部やらせだから。ヒッチハイクで停まる車でさえもね。治安の悪い街でも、芸人本人はビクビクしてたけど町の怖い人はみんなエキストラだから。】

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 まあ、この対談記事そのものも、参加者が実名なわけではないし、どこまで鵜呑みにしていいか疑ってはかかるべきだと思うのですけど、それにしても全部作り話というわけではなさそうですよね。僕は、飲酒運転ドライバー本人が「仕込み」じゃなくて、本当に素人をディレクターが挑発して怒らせているとか、某バラエティ番組で、「芸人本人はビクビクしていた」(芸人たちは「やらせ」は知らなかった)とかいうような話を読むと、むしろ「予想していたより真面目に番組を作っているところもあるんだな」と感心してしまいました。もっと嘘ばっかりなのだろうと予想していたのに。

 それにしても、ここで紹介されているテレビ番組の制作の現場においての「ねつ造」の数々には、ただ呆れるばかりです。僕も実際に健康系番組の取材を受けた医師たちの「自分のコメントのごく一部を強調して使われた」とか、「○○は絶対に、100%ないとは言い切れませんよね?」という取材者の質問に「そうですね…」と答えたら「××先生は、○○の可能性が十分にあると言っていた」というコメントにされていた、とかいうような話を何度も耳にしたことがあります。取材者の多くは、「実態を知る」ことが目的ではなくて、「あらかじめ準備された結論を権威付けできる」コメントした必要としていないのです。しかしながら、今までそんな偏った取材をされた人たちの困惑の声が大きく取り上げられることはありませんでした。だって、それを「報道」するのも、マスコミですからね。

 「あるある事件」というのは、まさに「氷山の一角」でしかないのだと僕は思っています。「納豆事件」というのは、「メジャーな食材で大きな反響を狙いすぎた」がために馬脚を現してしまいましたが、この事件だって『週刊朝日』が採り上げようとしなければ、これほど大きな問題にはならなかったはずです。マスコミの「ねつ造」を「発掘」できるのも、やはりマスコミの力なのだというのは、それらの権力から程遠いところにいる僕にとっては、怒りよりも恐ろしさを感じてしまうのですけど。

 ただ、これを読んでいると、「現場の人間だけが悪い」というわけではなさそうなんですよね。視聴率を獲るために無理なスケジュール、安い予算で「インパクトのある内容」を要求するテレビ局やそんな番組を鵜呑みにして、高視聴率を与えてしまう視聴者にも責任はありそうです。もし視聴者が「そんなに上手い話や健康上の大発見が毎週あるはずがない」という理性を持っていれば、そもそも、「あるある」はこんな長寿番組にはなっていないはずです。いや「健康になる方法」の王道は、バランスが取れた適量の食事療法、適度な運動、十分な休養だということは周知の事実のはずなのだけれど、みんな「ラクして健康になる、痩せる方法」ばかりを追い求めてしまうから、騙されてしまうんですよね。ここ10年くらい、いろんなダイエットの本が出ましたけど、結局「ゴールデン・スタンダード」になったものはひとつもありはしないのに。

 これからも、テレビは「ねつ造」(あるいは「演出」)を続けるはず。それを無くすための唯一の方法は、視聴者がもっと賢くなることだけなのです。
 でも、「ダイエットのためにはカロリー制限と運動療法」って番組よりも、「納豆を食べて簡単にダイエット!」って番組のほうがやっぱりウケそうですよね、人って信じたいことしか信じないものだし。