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2007年02月03日(土)
遊人、松本零士らの「著作権ドン・キホーテ」の功績

『出版業界最底辺日記』(塩山芳明[著]・南陀楼綾繁[編]、筑摩書房)より。

1990年11月×日

 今絶賛発売中の、真弓大介センセ初の増刊号、『天国少女隊』で、すてぃる88に短編を描かせたのだが、出来上がった作品を見て今回は旧作を掲載、顔を描き直させ、他誌にまわすことに。
 主人公の顔が、遊人センセのキャラに似ていたため。普段は”たかがエロ漫画”であり、ンなことはいちいち気にしないが、相手が遊人センセとあっちゃねえ。何しろこのセンセ、1年ほど前この世界のSなる無名なエロ漫画家と出版社に、著作権侵害だからとン百万円だかを請求する内容証明書を送りつけ、結局は何分の1かで手を打ったと噂される、コワ〜〜〜イ人だから。
 『漫画なんて所詮は人真似。アイツだって昔はそうだったのに、バッカじゃねえの」「遊人て、『劇画ブッチャー』とか『劇画デカメロン』で、ついこの間まで描いてたヤロだろ? あの頃は池上遼一まがいだったのに、よくゆうぜ」「今は超売れっコだけど、何年か前持ち込みにきたよ。ンな態度でかい奴じゃなかったけどねえ。確かに気持ちはわかるけど、年収が300万円くらいしかない奴にお金払わせて、どんな気持ちなのかねえ。法律的にはどうか知らんけど、一種の弱い者いじめに見えるね」等の批難の声が、僕のまわりでは巻き起こった。だから、『ANGEL』が批難の矢面に立たされた時は「天罰だ!!」の大合唱。
 が、僕はそれ、違うんじゃないかな〜と。著作権なんて、こういう人情云々には妥協しない、高利貸し、いや、ドン・キホーテみたいな人が何人か出てくんなきゃ、絶対に確立されっこない。とはいえ僕なら、ビンボ漫画家個人ではなく、それで大儲けしてる、版元のみ標的にしますがね。その方が、よほど寝ざめがいいんじゃ?(すてぃるセンセに尋ねたところ、全然遊人センセなんて参考にしてないんだって。資料はやまだのらセンセオンリー。なのにこうなっちゃうのだとか。不思議ですね?)】

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 僕は某松本零士先生の「著作権」に関する言動などを観ていて、槇原敬之の歌詞の「パクリ騒動」や「宇宙戦艦ヤマト裁判」での松本さんの言動に「何なんだこの銭ゲバ漫画家は……」なんてかなり悪い印象を抱いていたのです。『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』なんていう名作を描いてきた人だけに、その作品の内容と作家自身の言動とのギャップに失望してしまったこともあって。
 この遊人さんのエピソードを読みながら、僕はその松本零士さんのことを思い出さずにはいられませんでした。
 僕も学生時代に遊人さんの漫画を何度か読んだことがありますが(当時は「有害コミック」の代表のようなイメージで、かなり世間からバッシングされていました)、正直あまりに人間離れしたスタイルの女性キャラの数々に、欲情するというよりは引いてしまったような記憶しかないんですよね。でも、当時は遊人さんの作品は大人気で、似たような漫画を描く人も多かったようです。
 ここに書かれているように、遊人さんも以前は「売れない漫画家のひとり」であり、彼が訴えた相手の生活レベルや作品の彼らの「盗作」がほとんど世間には影響しないこともある程度は理解しているはずなのですが、確かに、こういう「著作権の鬼」みたいな人が出てこないと、いつまで経っても漫画家の「権利」というのは確立されなかったのでしょう。偉い人に「まあ、キミも誰かの絵を真似したことくらいあるだろう?」と言われてウヤムヤにされてしまってばかりで。
 あまりに「それはオレの作品のパクリだ!」と、絡みまくる人は当然、業界内でも煙たがられると思うのですが、こういう「銭ゲバ」っぽい「ドン・キホーテみたいな人」がいればこそ、結果的に「作家の権利」というのは向上してきているんですよね。大部分の作家たちは、表向きは「あんなに大騒ぎするなんてみっともない」というポーズを取りながら、実際は「自分の著作権を放棄」する人なんていないし、彼ら「ドン・キホーテ」のおかげで得られた権利を、まるでそれが当然のことのように享受するわけです。結局のところ、大部分の人は、「面倒なことには巻き込まれたくないけど、オイシイところは遠慮なく戴いている」のですよね。
 いや、僕だってできればそうしたいし、実際に社会生活上、普段「あんなに気合入れて抗議したりしなくてもねえ」なんて白眼視している人たちが勝ち取った「権利」のおかげで、たくさんの利益を得ているのも事実なんだよなあ。