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2006年11月09日(木) ■ |
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『エンタの神様』の「人気芸人のつくり方」 |
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「日経エンタテインメント!2006.12月号」(日経BP社)の「『エンタの神様』生みの親が初めて明かす、人気芸人のつくり方と今後への不安」より。文:松野浩之、麻生香太郎)
【この番組(『エンタの神様』)を手がけるのは、日本テレビの五味一男プロデューサー。総合演出の肩書きで、企画から構成、演出までのすべてを担当する。過去に手がけた番組は『クイズ世界はSHOWbyショーバイ!!』『マジカル頭脳パワー』『投稿!特ホウ王国』『速報!歌の大辞テン!!』など。ほぼすべてで視聴率20%を叩き出していることから、業界では”9割打者”と呼ばれる。『エンタの神様』は、五味氏にとって初めてのお笑い番組だった。 なぜ、この番組だけが継続的に人気芸人を輩出できるのか。謎を解くべく取材した五味氏の言葉から浮かび上がった制作システムは、とてもテレビのお笑い番組とは思えないものだった。 普通のネタ番組は、面白い芸人やネタを”探す”。だが、『エンタの神様』は”探す”だけではない。養成学校のように芸人を”育てる”。そしてバラエティ番組のようにネタを”演出する”。この違いは大きい。「ネタなら番組サイドで作れるはず」という五味氏の理念から生まれた組織構成と運営体制を順に見ていこう。 番組スタッフは、五味氏を頂点に役割によって大きく3つのグループに分けられる。 まずは(1)芸人を”探す”発掘グループ。10人近くのスタッフが、毎週、都内を中心としたライブハウスに足を運び、ビデオを撮る。集まった100本以上のネタを五味氏自らが毎週1回5時間以上かけて見て、可能性がありそうな1〜3組の原石を選ぶ。「『爆笑オンエアバトル』(NHK)など、ほかの番組での実績は全く参考にしない。面白いか面白くないかよりも、大衆の視点で、分かりやすいか、受け入れられるかどうかが判断基準」(五味氏)。例えば、友近は『オンエアバトル』では結果を残せなかったが、五味氏は将来性を見抜いて起用した。
特異なのが、(2)芸人を”育てる”育成スタッフ。ベテランでも新人クラスでも芸人1組に、1人のネタディレクターと、1〜3人ほどの放送作家がつく。芸人と打ち合わせやトレーニングを重ね、二人三脚でネタを考える。できたネタは五味氏がチェックして、修正ポイントを指導。この作業を繰り返し、五味チェックをクリアしたら、ようやく出演に至る。 所属するネタディレクターは15人ほどで、1人当たり2〜3組の芸人を担当する。番組に出演する前の段階の新人クラスも含めると合計50組近くの芸人を育てている。一方、かかわっている放送作家は30人前後。ネタディレクターや五味氏が、芸人ごとに目指す芸風に合いそうな放送作家を選ぶ。 新人クラスが出演できるまでの期間はまちまち。「すぐにネタが固まって出演する人もいれば、摩邪のように女子プロレスラーのマイクパフォーマンスというネタの骨格が決まるまでに1年半くらいかかる人もいる」(五味氏)。 スタッフがネタに関与する割合も芸人ごとに違う。「100%番組側が作るケースもあれば、芸人が99%作るケースもある。いずれにしても芸人のネタを100%そのまま放送するというのは、ほぼあり得ない」(五味氏)。 最終的に映像を撮影して編集するのが、(3)映像を作る”演出スタッフ”だ。ここでの作業もほかとは一味違う。『オンエアバトル』など、一般的なネタ番組は芸人をスタジオに呼んで、順番に披露されるネタを撮影していくだけだ。 だが、『エンタの神様』は、少しでも失敗したら何度でも撮り直しを求める。「過去には青木さやかが5回NGを出したことがある。最近では小梅太夫は撮り直しに時間がかかる」(五味氏)。 ズームなど多彩なカメラワークを使ったり、テロップを多用したり、ネタの時間を1〜15分と調整したりするのも、この番組ならでは。ネタ番組というよりもバラエティ番組に近い演出手法だろう。
実は、こうしたシステマチックな製作体制に、拒否反応を示す芸人は多かったという。「『エンタの神様』に呼ばれることを、赤紙が来たと表現する芸人もいた」(五味氏)。つまり最悪なところに呼ばれてしまったという意味だ。個性を押さえ込まれ、自分の意図しないネタをやらされる場合も多いからだろう。だが、最近では「95%の芸人が何でもやりますと言ってくれる」(五味氏)。それもそのはず。出演すると芸人としての商品価値が格段に高まるからだ。3回出演したら、5万円だった営業のギャラが100万円になったケースもあるという。】
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五味一男プロデューサーおそるべし。 僕も『エンタの神様』はよく観ているのですが、ここまでたくさんの人があの番組にかかわっていて、こんなふうに作り上げられているとは思ってもみませんでした。「面白いネタを発掘してきて紹介している」のではなくて、「面白くなりそうな芸人を見つけて、その芸人に制作サイドからネタを提供して出演させる」というのが、『エンタの神様』の制作手法なのですね。「ただ芸人を並べて、次々とネタを披露させていくだけ」のように見えて、実際は、とても大がかりなプロジェクトを組んで、次々に新しい芸人を生み出し続けているのです。そして、その「ネタ」には、その芸人のオリジナルをかなり尊重したものから、ほぼ100%番組側で用意したものをやらせるものまで含まれている、と。いずれにしても、『エンタの神様』でオンエアされているネタには、真の意味での「予想外のハプニング」というのは起こりえないわけです。
しかし、こういう「制作サイド主導」の手法って、芸人側からすれば、たしかにあまり喜ばしいことではないでしょう。自分がやりたいものじゃないネタを押し付けられてしまう可能性も高いわけですし、もしそのネタで『エンタの神様』に出演してしまえば、世間のイメージはそれで固定されてしまうかもしれません。ネタによっては、『エンタの神様』以外のテレビ番組で見せることを禁じられている場合もあるそうですし。それでもやはり、この人気番組に出演するというのは大きなステータスであり、「1回5万円の営業のギャラが、3回の出演で100万円に!」なんていう話を聞くと、たいていの芸人は「なんでもやる」に違いありません。そりゃあ、もともとものすごく稼いでいるダウンタウンとかナインティナインのようなクラスならともかく、多くの芸人としては、「このまま売れないよりは、リスクがあってもチャンスのほうが大きい」ですしね。「赤紙」という言葉には、「不本意だし不安だけれども、出演しないわけにはいかない」という芸人側の本音が隠されているような気もします。五味プロデューサーは、「3年間で5000組1万人の芸人のネタを見てきた」と語っておられますから、「育成対象に選ばれる」だけでもたいしたものではありますし。
そんなふうに考えていくと、この番組で成功できるかどうかって、本人のキャラクターも大事なのでしょうが、それ以上に、ネタディレクターや放送作家の「当たり外れ」って大きいのでしょう。なんだかよくわからない暴露ネタで非難轟々だったクワバタオハラとかも、ある意味、「言われたことをやっただけの被害者」なのかもしれないんだよなあ。
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