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2006年11月08日(水)
武論尊が語る「『北斗の拳』に一片の悔いあり!!」

「オトナファミ」2006・AUTUMN(エンターブレイン)の記事「ヒストリー・オブ・武論尊」より。

(『北斗の拳』『ドーベルマン刑事』などの数々のヒット作を生んだマンガ原作者・武論尊さん(史村翔名義の作品も多数)へのインタビュー記事の一部です)

【武論尊は、キャラクターの設定についても、豪快に笑いながら語る。

武論尊「ケンシロウって本当にズルい男だよな〜。周りの人間、バタバタ死んでいくんだよ、アイツのせいで。まあ、そういう作り方したのオレなんだけど(笑)。胸の7つの傷も、とりあえずつけといてくれって言って、何でついたのか、理由は何も考えてなかったんだよなあ」

 とりあえず!?かなり周到な伏線としての傷跡と思いきや……。

武論尊「そ、とりあえずね。んで、それが最終的にシンがつけた、としたとき、オレは上手いなぁ、と。これだけウソがつければ大したもんだと(笑)」

 ならば、その後に明らかになる北斗四兄弟の存在については?

武論尊「話が詰ったときにね、ケンシロウだから、4番目だよね、兄ちゃんが3人いるはずだと。で、ジャギが出たとき、これをひとりにしようと。あとふたり居るけど、ひとりは仁王のようにでかい男。もうひとりは細めでかっこいい男と。でも、まだ何も決まってないからシルエットで!」

 鮮やかに繰り出される武論尊マジック。とはいえ人気が日毎過熱してゆく週刊連載は、まさに綱渡り。

武論尊「毎回ラストで盛り上げて、俺自身が先見えてないんだから、誰か教えてよ。どうするんだよこれって感じだよ。でもね、そのほうが読者も本気でワクワクするんだよね。それに俺の場合、どうしてもうまくいかなきゃ10回でサッと辞めちゃうし(笑)。」

 結果的に、連載5年全27巻に及ぶ長編作品となった『北斗の拳』だが、自身は、ケンシロウとの死闘の末「わが生涯に一片の悔いなし!!」の名ゼリフを遺して天に帰ったラオウの亡骸とともに、てっきり連載は終了すると思っていたという。

武論尊「連載の終了って、出版社側と作家側、両方がなんとなく同じタイミングで切りだすものなんだけど、『北斗』の場合は、オレも原(哲夫・作画担当)先生も絶対にラオウで終わると思っていたからね。で、いきなり続けるって言われて、少し休みをくれるかな、と思っていたら、休みなし! 次の週から新章よろしく。って、厳しかったよ。あのとき2ヵ月くらい休みをもらってたら、もう少し面白い話になっていただろうね。だから、ラオウ以降の話は、どうやって作ってたか、ストーリーも何も全然覚えてない!」】

〜〜〜〜〜〜〜

 いやまあ、この武論尊さんの話が、どこまで本当はわからないんですけどね。マンガの原作って、そこまで行き当たりバッタリでも大丈夫なものなのでしょうか。それとも、そういう「原作者すら先が見えていない感じ」というのが、意外な発想を生み出す原動力となっているのか。こういうのって、常人では話を思いつくことができないでしょうし、何より、「毎週絶対に続きを作らなければならない」というプレッシャーに耐えられないような気がします。
 でも、「10回でサッと辞めちゃう」っていうのは、ジャンプ的には「打ち切り」なんじゃないですか武論尊先生!

 ここで語られている『北斗の拳』連載時のエピソードを読んで、僕も、連載当時の周りの友人たちも、『北斗の拳』はラオウ編で終わる、と信じていたことを思い出しました。あの「夢想転生」のあたりは、すごい盛り上がりでしたし。そもそも、描いていた2人が揃って「これで終わり」と感じていたのですから、それが読み手に伝わってくるのは、ごく当たり前の話です。
 でも、結果的に、ジャンプの編集部としては、この超人気作品を「終わるべきときに終わらせる」ことができませんでした。それでも、「ラオウ以降」の『北斗の拳』だって、連載中は「すっかりパワーダウンしたなあ……」という感じだったものの、今あらためてまとめて読んでみると、けっして当時僕らが落胆していたほど「絶望的につまらない」わけでもないのですが。

 それでも、ラオウとの決着までの盛り上がりに比べたら、それ以降は、「強引に続けようとしているだけ」に思えたのは事実。これに関して、集英社は「名作を終わるべきときに終わらせなかった」ことを責められるべきなのか、それとも、「続けることによって少なからぬ利益を得ることができた」ことを賞賛されるべきなのかは、なんとも言えないところです。それぞれの「立場」が違えば、結論も異なってくるでしょうし、作者2人も「継続」を最終的には了承したのですから。たしかに、あのとき少しでも「休養」を挟んでいれば、『北斗の拳』はもう少し長く続いたのかもしれないなあ、とも思いますけどね。「覚えていない」という武論尊さんの言葉には、「自分としても不本意だったので、思い出したくない」というニュアンスを感じますし。