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2006年09月24日(日) ■ |
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『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』は、なぜ、あんなに売れたのか? |
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『ダ・ヴィンチ』2006年10月号(メディアファクトリー)の対談記事「わたしにもベストセラー新書が書けますか?」より。
(対談されているのは、辛酸なめ子さんと、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の著者・山田真哉さんです)
【辛酸:手元にある『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の帯を見ると130万部と書いてあるのですが、いまは何万部ぐらい売れているのでしょうか。
山田:148万部ですね。ただ、人に言うときはキリのいいところで150万部にしています。
辛酸:100万部を越えると2万部も端数なんですね……。私の本は山田さんの端数分ぐらいが売り上げ数の相場なので。
山田:100万部越えたら2〜3万部は惰性ですよ。
辛酸:惰性、ですか。
山田:惰性というのは、とくに営業しなくても1ヵ月にそれぐらいは売れるということ。「ミリオンセラーだから買おう」という方々がいらっしゃるので。でも、ミリオン達成までにはかなり営業戦略的に仕掛けています。たとえば増刷するたびに毎回帯を変えたり。それでも、本の売れる要因は”商品8割・営業2割”と言われているんですよ。保険だったら「商品2割・営業8割」だけど、本は商品力、中身に依存している。
辛酸:タイトルも大事そうですね。『さおだけ屋は〜』以降、タイトルに「なぜ〜なのか」というのが増えましたし。
山田:新書は装丁で違いが出せませんから、タイトル勝負なんです。売れる本のタイトルには2つのパターンがあるんですけど、ひとつは”共感を取りにいく”。ふたつめは、”斬新さを狙う”。最近だと『ウェブ進化論』や『会社法入門』といったような、新しいテーマを扱っていることがタイトルでわかるものです。『さおだけ屋は〜』は”共感を取りにいく”パターンですね。
辛酸:共感が取りにいけるものだと、はじめて知りました。
山田:『さおだけ屋は〜』は、タイトルのマーケティングリサーチ期間に1年かけました。自分の主張を押しつけるようなものではダメ。相手は何を欲しがっているのか、それを知るのがポイントです。
(中略)
山田:新書だけではなくほかの本もそうですが、「読者に最後まで読み切らせる」というのがもっとも大事です。これは出版の極意。最後まで読み切らないと人は口コミしてくれないですから。とくに新書は通勤時間や仕事の休憩時間に読まれることが多いので、読み切らせるのは大変なこと。だから僕は1エピソードをだいたい10分で読めるように設定しています。
辛酸:もしかして、書きながら時間を計ったりしているのですか?
山田:当然、計ります。いつもストップウォッチを用意しています。
辛酸:!
山田:僕にとっては当たり前のことですよ。僕の本は「10分の休み時間に1エピソードが読める新書」。メインターゲットのことを知り尽くさないと新書は必ず失敗します。また、起承転結、もしくは序破急をつえて、読みやすくし、最後に実生活の知恵などを織りまぜて説得力を強くすることも重要です。あと、プロフィールの書き方も大切。僕は神戸出身なのですが、プロフィール欄の出身地や学歴などに地方色があるとその地方の人は親近感を抱いてくれます。
(中略)
山田:もうひとつ忘れてはならないのが、広告です。同じ出版社の新書のなかに、ビッグタイトルはないかどうかを調べる。
辛酸:浜崎あゆみと同じ方式ですね。
山田:ええ、そうです。B'zとジャニーズが同じ日にリリースしないのと一緒ですね。出版社が新聞に掲載する新書の広告はスペースが限られていますから、同じ出版社の新書のなかで同じ発売日にビッグタイトルがあると、自分の本が小さく扱われてしまう。だから、以前、齋藤孝さんとバッティングしそうになったときには「山田真哉の名前がいちばん大きく出せる月に出版させてください」とお願いしました。】
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『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』が大ベストセラーとなっている山田真哉さんが明かす「新書を売るためのマーケティング戦略」。僕も『さおだけ屋〜』のタイトルに惹かれて買ったのですが、あの本がここまで綿密な準備を経て世に出た本だとは思いませんでした。こういう裏話を読むと、なんだか自分が見事に踊らされてしまっているようで、ちょっと悔しいような気もするんですけどね。 言われてみれば、新書というのは同じ出版社のシリーズは同じ装丁ですから、書店でアピールできる要素って「タイトル」と「著者」だけなんですよね。そして、「今、話題の本」あるいは「話題の人が書いている」というのが売れるためには非常に大事であるということなのでしょう。新聞広告も、そんなに効果があるのか疑問だったのですが、山田さんのこの発言内容からすると、けっこう重要な要素のようです。しかも、一番大きく載ることが大事なんですね。確かに、よっぽどの「新書マニア」でない限り、通勤の際に手に取るのは一冊だけでしょうから。 僕にとっては、新書って、大きさも内容もなんだかちょっと中途半端な気がしてあまり好みの媒体ではないのですけど、出版する側からすれば、あえてそういう「ギリギリのところ」を狙ってああいう形になっているようです。あまりに難しい内容だとみんな最後まで読めないし、あまりに簡単すぎると、役に立たないと判断されるし。 まあ、山田さんほどキチンとマーケティングをしている著者は、あんまりいないと思うのですけどね。
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