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2006年08月25日(金) ■ |
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「機動戦士ガンダム」に貢がれ続ける男 |
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「週刊朝日」(朝日新聞社)2006年8月4日号の「マリコのゲストコレクション」第325回より。
(作家・林真理子さんと作曲家・三枝成彰さんの対談の一部です)
【林真理子:今までも小さいオペラはやってらしたけど、本格的なグランドオペラは「忠臣蔵」が初めてですよね。
三枝成彰:そう。あれが初めて。
林:あのとき、三枝さんがすごい興奮してて、「毎日、舞台に向かって射精しているみたいで気持ちいい!」と言ったの、私、すごく印象的で覚えてる。そしたら佐藤しのぶさんが「まあ、スケッチをなさるの?」っておっしゃったんですよね。(笑)
三枝:やりたいことがやれた達成感でしょうね。射精というのは。
林:「忠臣蔵」はすごい話題になりましたけど、お金もメチャメチャかかったんでしょう? 舞台で花火が上がったり、大演出家を起用したり。
三枝:演出をウェルナー・ヘルツォークというドイツの映画監督にやってもらって、美術が石岡瑛子さん。お金かかったよねえ。死ぬほどかかった(笑)。シンプルな舞台なんだけど、舞台だけで1億ぐらいかかったかな。入場料収入が4千万円で、かかったお金が5億2千万。
林:ひぇ〜! 残りの4億……。
三枝:4億8千万は、基本的に皆さまのご浄財にすがったんです。
林:「Jr.バタフライ」も、すごくお金かかってるわけでしょう?
三枝;これは2億7千万ぐらい。「今度はお金のかからないオペラをやろう」と島田(雅彦)と話して、登場人物を減らしたんです。
(中略)
三枝:まあ、お金はないですね(笑)。ほんとにない。僕はたぶん、港区の高額所得者ランキングの100位以内にいるんですよ。
林:お金持ちがウジャウジャいるこの界隈で、100位以内……。
三枝:でも、現実にはお金がない。事務所の借金がすごいんですよ。
林:今度のオペラでも増えちゃう?
三枝:たぶん2千万ぐらい足りないんじゃないかな。もちろん企業に協賛していただくんですが、それでも足りなくて、この会社で負担するのが2千万ぐらい。
林:三枝さん、絶対ファーストクラスには乗らないですよね。もし協賛してくれる企業のトップが近くに乗ってて、自分がファーストだったらどう思うかって。
三枝:絶対ファーストには乗らない。エコノミーでも平気。今度のイタリアもエコノミーで行くんです。オペラは趣味なんですよ。だからカネを稼ぐことができないでしょう? ドラ息子みたいなもんですね。
林:愛してしまったんだから、仕方がない?
三枝:そう、深情け。好きなことをやっているんだから僕は幸せなの。だから苦労ではないんですよ。
林:三枝さん、「機動戦士ガンダム」の音楽も書いているんですよね。あの印税ですごく儲かったって喜んでましたけど。
三枝:「ガンダム」がなかったら、僕はオペラできなかったと思う。20年前ぐらい前に作曲したやつですよ。それがゲームになってお金になり、ビデオになって、LDになってお金になり、今度はDVDでしょう。1セット数万円するのが、30万セット売れたんです。
林:すご〜い! 「ガンダム」が三枝さんのオペラをつくり上げたんですね。】
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僕にとっての三枝成彰さんといえば、「ガンダムの音楽を作った人」というイメージのほうが強いのですが、御本人からしてみれば、ガンダムの音楽というのは、「勝手に貢いでくれる愛人」みたいなものなのかもしれませんね。最初にガンダムの音楽を作られたときには、こんなにお金になるとは思ってもみなかったのでしょうけど。ゲーム、ビデオ、レーザーディスク、今回のDVD……、それらのBGMとして三枝さんの曲が使われれば、それこそ「黙っていてもお金がどんどん入ってくる」わけです。確かに、あの音楽がなければ「ガンダムらしさ」がだいぶ失われてしまうのも事実なんですけど。 それにしても、オペラというのは上流階級の娯楽だというイメージがあったのですが、ここまでお金がかかるものだとは知りませんでした。5億2千万!「金のかからないもの」でも、2億7千万!いくら「オペラは入場料が高い!」と観客が愚痴ってみても、入場料収入というのは、収入の1割くらいにしかならないそうです。しかし、それだけお金を集めてもオペラをやりたい、という三枝さんの「オペラ愛」というのも凄い。僕だったら、企業からの「浄財」が4億8千万も集まるのだったら、5億2千万円ものオペラを作るのではなくて、3億円くらいのコストのオペラを作って残りを懐に入れちゃうのではないかと思います。そういうセコいところがないのが、たぶんん、三枝さんのところにお金が集まる理由のひとつでもあるのでしょう。そして、「ファーストクラスに乗らない」なんていうエピソードも、三枝さん自身が「パトロンという人種の気持ちがわかる」人間であることを物語っているようです。やっぱり、あんまりガツガツしすぎていては、お金っていうのは寄ってこないのかもしれません。 ああ、でも僕が今までに「ガンダム」につぎ込んだけっこうな額のお金が、僕が観たこともないような高尚なオペラに使われているというのは、不思議な気分であるのと同時に、ちょっと寂しくもあるのです。なんだか、自分がさんざん貢いでいた恋人が、そのお金を他の男に貢いでいたような、そんな感じなんだよなあ。
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