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2006年06月29日(木) ■ |
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消えてゆく「図書館」 |
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「ぢぞうはみんな知っている」(群ようこ著・新潮文庫)より。
(ちゃんと本を返却していたにもかかわらず「督促状」が図書館から送られてきて、その「督促状」は、パソコン上の情報だけで処理・発行され、書架での実際の本の有無は確認されていなかったことがわかった、という顛末を書かれた文章の一部です)
【家までの帰り道、昨年、その図書館であったことを思い出した。利用する人々に、「はい、また借りてくださいね」と職員のおじさんが大声でいっていた。 (うるさいなあ。どうしてそんなこと言うんだろう。放っておいてくれ) といいたくなったのだが、その話を編集者にしたら、 「図書館も大変みたいですよ」 と教えてくれた。利用者が少ない図書館は予算が削られるので、とにかく回転をよくしなければならないらしい。だからベストセラーをどーんとまとめ買いして貸し出す。そのかわりに入手不可能な古い本はどんどん処分されていく。 「でもそれって、図書館じゃないじゃない」 図書館までも、利害関係が発生するようになってしまったのかと失望してしまった。 図書館というのは私にとっては、中に入ると恐ろしいくらいに静かな場所だった。歩くのにもおそるおそる足を前に出した。咳もくしゃみもしにくかった。小学校の図書館ですらそうだった。社会人になっても図書館に行くとなぜだか胸がわくわくした。本を借りるという目的もあるが、図書館という場所に身を置く楽しみがあった。新刊本書店にも古書店にもない本を見つけ、隅から隅まで見ていくと本当にきりがなかった。自分の手元に本がなくても、図書館には保存されているから安心と思っていたのが、そうではなくなってきた。おまけに静かどころか職員が、 「また借りてください」 と大声でいう。中央図書館の保存庫にあるはずだからと、取り寄せの手続きをとったら、すでに処分されてなかったということも一度や二度ではなかった。場所ふさぎでもあるし、自分の手持ちの本を最小限にするために、図書館を最大限に利用しようと考えていたが、それも改めざるをえなくなった。 「だいたい物書きが物を減らしたいがために、図書館を利用しようという魂胆が間違いのもとだったのだ。借りずにちゃんと買うべきだったのだ」 と反省した。】
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これを読みながら、「そういえば、僕も図書館にずっと行っていないなあ」なんてことを思いました。平日はなかなか開館時間内に仕事が終わるということはないですし、休日にわざわざ行くというのもなんだか勿体ないような気がするし。そもそも、借りるのは良いのだけれど、「返しに行く」というのは非常に面倒ではあるんですよね。そして、返しに行ったら、「返すだけというのは、なんだか勿体ない」というような気分になってまた新しい本を借りてしまいたくなりますし。所有欲もあって、「わざわざ借りて返しに行くくらいなら、買ったほうが手っ取り早いし……」というような結論に達してしまうのです。レンタルDVDくらい値段が高かったり、店が遅くまで開いていてくれれば、「レンタルにしよう」ということになるのですが。
僕も昔は図書館大好き少年でしたから、ここで群さんが嘆いておられる気持ちはよくわかります。息が詰まるくらいの静寂に包まれていて、本屋には売っていない、あるいは高くて買えないような本がたくさん並んでいてこそ、「図書館らしい」と僕も思います。どこにでも売られているようなベストセラーばかりが図書館の棚を占拠するようになって、図書館にしか残っていないような貴重な本が捨てられていくというのは、とても悲しい話です。本好きの人間は、「ベストセラーは本屋で買うから、そういう本こそ、図書館に残しておいてほしいのに……」と考える人が多いのではないでしょうか。 でも、その一方で、「公共の施設としての図書館」としては、その「社会的貢献度」を目に見える形で示すためには、「借りた人の数」とか「本の回転率」という「数字」で結果を出していくしかないのですよね。ほんと、世知辛い世の中だなあ。 図書館員だって、別に好きで『Deep Love』とかを大量に入れている人ばかりではないはずです。「また借りてくださいね」なんて、言いたくて言っているわけでもないでしょう。にもかかわらず、そういうのが「サービス」だと思われがちなのが、今の時代なんですよね。「図書館員は愛想がない、サービスが悪い」なんて抗議した人が、いたのかもしれません。本来は、そんなお愛想よりも「静かに本が読める環境」こそが、図書館に必要なサービスだと思うのですけど。 しかし、そんなふうに考えると、「ただ本を整理して、貸し出しの管理をするだけ」のようなイメージの図書館のスタッフで、実際はけっこう大変な仕事ですよね。群さんみたいな「読書フリーク」から、「なんで『恋バナ』いつも貸し出し中なの!」っていうような「ベストセラー派」まで、幅広く対応していかなければならないのですから。
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