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2006年05月29日(月)
宇多田ヒカルと「エヴァンゲリオン」

「週刊プレイボーイ」(集英社)2006.6/5(Vol.23)号の特集記事「エヴァンゲリオン10年目の真実」より。

(「新世紀エヴァンゲリオン」のファンだという宇多田ヒカルさんへのインタビューの一部です)

【インタビュアー:最も印象的なシーンは?

宇多田:シンジ君がクラスメート2人をエントリープラグの中に招き入れて使徒と戦う第参話の『鳴らない、電話』かな? 活動限界ギリギリで絶叫しながら使徒を倒すでしょ? 私も『うわぁぁぁぁ』って泣いちゃって(笑)

インタビュアー:感情移入しまくりですね。

宇多田:エヴァに乗ることって生きることだと思う。細かく言っちゃえば、仕事をすることだったりね。こんなに辛いのに何で私は仕事をしているのだろうとか。結果的には自分で選んだことなのに。辞めたい、とデビューした頃とか思ってて……。あのナイフで使徒を刺しているシーンに私が抱くすべてが集約されていたというか。『うわぁぁぁ』でしか表現できない気持ちを感じちゃったんです、あのシーンから。

インタビュアー:エヴァには感情を揺さぶられる、と?

宇多田:まともに見れない。泣いちゃう。あまりに自分と重なり合う部分が多くて”精神汚染”されてしまう(笑)

インタビュアー:具体的にどこが重なり合うんでしょう?

宇多田:いつも”逃げたい”という気持ちとか、ね(笑)。私はずっと自分がこの世界にいないような気がしていた。消えたいとかって。15歳でデビューして、有名になって、自分が望んでいないものがポンと入ってきちゃって。周りからは『幸運』みたいな言い方をされるけど――私からするとこんな十字架みたいな役目なんかいらない――そう思っていた部分があって、普通に大学に行って、会社に入ってとか、ね。今は自分の環境とか仕事とか立場とか全部に対して和解したけど。今、実際、起きている世界でいいじゃんって。仕事を辞めても私は私だし、と考えたら、いろんな未来が見えてきて、いろんな可能性があった。気が楽になって。シンジ君が好きというか自分自身に近いから彼には共感できるのかも。

インタビュアー:放送開始から10年を超えても色あせないエヴァの魅力はどこにあると思います?

宇多田:すべての根源というか源がテーマだから。誰しもが人として、生き物として持ってる共通点の一番低い値を突きまくっているから古くなりえない。私がエヴァから感じ取ったのは、家族との距離、他人との壁、寂しい気持ち。ある種、ダシそのもの。鰹節と昆布の塊でできている作品だから、味が古くなることはない。】

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 宇多田さんが、ここまでコアな「エヴァンゲリオン」のファンだったとは!
 このインタビューによると、宇多田さんは、夫の紀里谷和明さんのススメで「エヴァンゲリオン」を観はじめたそうなのですが、本人にとっても予想外なくらいに、ズッポリとその世界観にハマってしまったそうです。
 しかし、これを読んでいると、傍からみれば「シンデレラストーリーの主人公」にしか見えない宇多田さんは、こんなに激しく己の内面と闘い続けてきたのかと、ただただ驚くばかりです。そう言われてみれば、若くして人も羨む存在になってしまったこと、社会的に有名な親との葛藤など、宇多田さんと「エヴァンゲリオン」の主人公、碇シンジとの共通点というのは、けっこう多いような気がします。シンジに対しても「エヴァに乗れるなんてうらやましい」なんて言っていた人が、劇中ではけっこういましたしね。「選ばれてしまった人間」の苦悩は、本人にしかわからない。

 外見上はむしろ「ものおじしない大物」というイメージの宇多田さんも、自分が置かれてしまった立場に対して『うわぁぁぁぁ』って心の中で叫びたくなったことがたくさんあったみたいです。
 宇多田さんは、今はそれなりに「現実と和解する」ことができたと語っておられますが、これってまさに「エヴァ」のストーリーそのもの。
 今のこの「和解」のなかでも、たぶん、多少の現実との葛藤の波はあるのにちがいありません。

 そこまでしてエヴァに乗る必要があるのか?
 それとも、「生きることそのものが、エヴァに乗って戦い続けること」なのか?
 あたりまえのことなのですが、宇多田さんも僕と同じ「人間」なのだし、宇多田さんに限らず、人はみんな、それぞれの葛藤を抱えながら生きているのだな、とあらためて考えさせられました。
 エヴァに乗れない人生はつまらないし、エヴァに乗れない人生は辛すぎる。
 ああ、「エヴァって、何なんだろう?」