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2006年04月27日(木) ■ |
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『Production I.G』という会社が成功した理由 |
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「勝つために戦え!」(押井守著・エンターブレイン)より。
(「機動警察パトレイバー」「イノセンス」などの作品がある、映画監督・押井守さんが、プロダクション・アイジー(以下I.G)の成功の理由と、I.Gのプロデューサーである石川光久さんについて語っているところより。聞き手は野田真外さん)
【押井:そう、だから常勝は不可能でもある程度打率を稼いでいくためには、成功や失敗の理由をこつこつと積み上げて理解するしかないんだよ。そのための一番簡単な手段は強力な指導者がいること。I.Gの石川みたいなもんだよね。失敗した場合も石川が全部責任を持つ。成功したら、アイツが頑張ったおかげと現場を立てる。石川は現場に思い入れのあるタイプのプロデューサーだから現場を立てることを知っているよね。そこがまったくないプロデューサーは、失敗すれば全部現場の責任、成功すれば全部自分の手柄、ってことを繰り返すから、現場はどんどんクサっていく。愛情が持てないからスタッフはどんどんよそへ移っていく。スタジオのポテンシャルは下がっていく。逆に勝つスパイラルに乗ったスタジオはほっといても伸びる。仕事したいってところが山ほど出てくる。I.Gはその典型だよ」
野田:なるほど。
押井:そして石川は目指すべきいい作品の基準が明快なの。よく言う「TV局の方向性」とか「お客さんが喜ぶ作品を目指して」とかいうのは、実はよくわからない基準だよね。石川の言ういい作品というのは、現場が認めるいい作品。一番シンプルでわかりやすい。現場にとってのいい仕事とはクオリティってことだよね。なおかつ面白いかどうか。面白ければ絵なんかどうでもいいんだっていう言い方は現場はしないし許されない。石川はまず現場が納得する仕上がりを目指した。売れるか売れないかはわからないけど俺たちはいいものを作ったんだ、という誇りが持てる間は現場は求心力を持てるし、モチベーションも保てる。現場っていうのは前よりいいものを作ろうと必ず目指すからポテンシャルも上がる。スタジオというものを考えるのに一番重要なのはそういうこと。責任の所在を明らかにする。物事の基準を明快にする。 I.Gという会社が成功した理由はあらゆる意味で基準を明快にしたことだと思う。これをやりたいという人間には必ずやらせる。演出やりたいっている人間にはコンテも切らせるし場合によっては作品も持たせる。
野田:ただ失敗したら二度目はないと。
押井:誰もが認めざるを得ないでしょ?……現場が評価するんだから。やらせてみて、誰かがアイツよかった、次やらせるべきだって言えば考える。そういう人間が一人もいなかったら、石川はやらせない。アイツは自分に映画を見る目があるとかホンを読む目があるとか、本質的には思ってないところが強いんだよ。まず現場にきく。基準を曖昧にしたまま一人で全部判断するのはダメ。一人の人間の中に見えない基準ができ上がっているだけで、誰にも理解できないから。モノを創る現場って言うのはちゃんと仕事してるかどうか誰もがすぐにわかるんだよね。アイツいねぇじゃんとか、ちゃんと1週間でこれだけのカットが上がったのかとか。あからさまにわかることを、ちゃんと吸い上げられるシステムになっているかどうかだよ。石川はボーナスの査定だって自分が主導してやってるんだから】
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参考リンク:Production I.G
長年のパートナーでもありますし、悪口は書けないとは思うのですが、それにしても、この石川プロデューサーの「人心掌握術」と「スタジオの運営方針」というのは、ものすごく参考になる話だなあ、という気がします。 石川さんというのは、「現場」というのをよく知っていて、しかも、「現場を立てる」ことができるリーダーのようです。「失敗した場合も石川が全部責任を持つ。成功したら、アイツが頑張ったおかげと現場を立てる」なんてことは、当たり前のようで、なかなかできることではないのです。僕も何人かの上司の元で働いてきましたが、本当にこういう上司はほとんどいませんでした。悲しいことに、その逆のタイプの人は、そんなに珍しくはないんですけどね。 そして、ここで押井さんが語られている石川さんの「成功の理由」のなかで最も印象に残ったのは、その「目指すべきいい作品の基準」についてのものでした。 「石川の言ういい作品というのは、現場が認めるいい作品。一番シンプルでわかりやすい」 こういう発想というのは、「自己満足だ」とか言われがちだと思うのですが、確かに「○○らしく」とか「お客さんが喜ぶ」なんていうのって、かなり「抽象的な目標」なのですよね。作品を創っている側としては、「本当に目標を達成できているのか自信を持てない」と思うのです。「売れる」という目標についても、実際のところ、本当に良いものがヒットするかどうかというのは、なんともいえない世界なわけで。 逆に「現場が満足できるクオリティであれば、それでいい」という「基準」というのは、確かに明快ではあります。もっとも、これも100%というわけにはいかないし、その「現場」を構成するスタッフが自分たちに甘い人たちばかりではどうしようもなさそうなのですが、I.Gの場合は、「勝つスパイラル」に乗れるメンバーをそろえたというのが、そもそもの「勝因」なのでしょう。
でも、これって「理想の職場」であるのと同時に、ものすごく「厳しい職場」なのかもしれませんね。
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