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2005年12月26日(月) ■ |
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腹話術のテクニックで、いちばん難しいのは? |
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「週刊アスキー・2005.11.8号」の対談記事「進藤晶子の『え、それってどういうこと?』」より。
(「ボイス・イリュージョニスト」こと、腹話術師のいっこく堂さんのインタビュー記事の一部です。)
【進藤:腹話術のテクニックで、いちばん難しいのはどういう点ですか?
いっこく:口を動かさないこと。実は、これがいちばん難しい。
進藤:えっ!?
いっこく:だから常にそのことを、1本の柱として意識していないとダメなんです。油断すると動いてしまうものなんですよ。
進藤:最初は腹話術入門という本を読んで、1日8時間も練習されていたそうですが、今はどうですか。
いっこく:声慣らし程度で20分〜30分くらいかな。実は練習しないと出ない声もあるんです。
進藤:たとえば?
いっこく:「(コップの中から聞こえてくるような声で)おぉ〜い!」といった、こもったような声は練習しないと……って、今、本当に出なくなってますね(笑)。だから、ある程度ウォーミングアップしないと出せない声は、日ごろからちょっとずつ練習しておくんです。
進藤:寝る前に、ベッドでとか?
いっこく:そんな感じです。みなさんがよくマネをする”衛星中継”は、練習しなくてもできるんです。(衛星中継ふうに)「……こうやって、……口を動かして、……あとから、……声を、……出すわけです」。
進藤:うわっ! ホントに遅れて聞こえる!】
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いっこく堂さんは、もともと喜劇俳優を目指して上京したものの、参加していた劇団での宴会芸がきっかけで「ひとりで芸を磨いてみよう」と思い立ち、腹話術の道に進まれたそうです。顎関節症に悩まされたりしつつも、現在では、日本を代表する腹話術師として活躍されています。先日、北京語での中国公演も行われたのだとか。 この話のなかで僕が興味深く思ったのが、あれだけ「腹話術」という芸を進化させたいっこく堂さんが、「いちばん難しい腹話術のテクニック」として、「口を動かさないこと」を挙げられていることでした。「腹話術なんだから、そんなの当たり前じゃないか!」とも思うのですが、その一方で、あれほどの腹話術のテクニックを極めた人でも、「気を抜いてしまうと、口が動いてしまう」らしいのです。これはもう、テクニックというより、いかに集中力をキープできるか、ということなのだと思います。 ステージに慣れてくると、つい、レベルの高いテクニックにばかり意識が向かってしまって、そういう基本中の基本を忘れてしまいがちになるというのは、なんとなく僕にもわかります。「そのくらいのこと、目をつぶってでもできる」なんて、熟練者を自負している人は言いたがるものですが、本当は、熟練しているからこそ「基本の怖さ」を知っているのですよね。
それにしても、「傍からみた印象での難しさ」と、実際にそれをやる人間にとっての技術的な「真の難易度」というのは、けっこう違うもののようです。「衛星中継」なんて、ものすごく難しそうなのに、いっこく堂さん本人に言わせると、「こもったような声のほうが、練習が必要」だったりするのですから。 そういえば、中学生のころ、教育実習に来た先生が、音楽の時間に、ショパンの「革命」を格好良く弾いているのを聴いて、僕たちは、「なんて凄いテクニックなんだ!」と感動したものです。でも、その先生は僕たちに、「この曲は、そんなに難しい曲じゃないんだけどね」と言っていました。そのときは、先生の謙遜だと思っていたのだけれど、今考えてみると、ピアニストにとっての「真の難易度」というのは、素人の聞き手が「スゴイ!」と思うような曲のスピードや派手さとはまた別のものなのでしょう。もちろん、そういう「一般の人へのインパクト」だって、プロにとっては大事なことには違いないとしても。
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