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2005年12月25日(日)
「リアル」と「嘘」の狭間にある名前

「三谷幸喜のありふれた生活4〜冷や汗の向こう側」より。

【歴史ドラマを書いていて嬉しいのは、登場人物の名前を考えなくていいこと。これだけ膨大な数の名前を自分でひねり出さなくてはならないとしたら、気が遠くなる。
 だいたい僕の書く作品は、登場人物が多いので、毎回ネーミングには苦労している。
 田中勉さんとか斉藤洋子さんといった、リアルな名前はまず出て来ない。鬼瓦権八や綾小路トト子みたいな、作り物めいた名前もない。「リアル」と「嘘」の狭間にある名前をいつも探している。大宮十四郎、二葉鳳翠(共に古畑の犯人)といった、凝っているんだけど、そこはかとなくリアリティーも感じさせる、そんな名前。
 古畑任三郎は、国道246沿いにある「古畑医院」の看板を見て思いついた。別のドラマでは知り合いの薬販売業の方の名前が、あまりに響きが良かったので、本人の了承を得て丸々使わせてもらった。ただ実在の人物の名前を借用することはほとんどない。自分で考えたのに、「なぜ私の名前を勝手に使うのか」と苦情が来ることもあるくらいなので。
 逆に僕自身の名前が他の人の作品に登場することは、滅多にない。そんなに珍しい名前ではないのだが、見た目が淡白だからか、作家のイメージを喚起させないのだろうか。僕の知るところでは、川島雄三監督の「しとやかな獣」の若尾文子さんの役が三谷幸枝だった。尊敬する川島監督の作品なのでこれは嬉しかった。】

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 これに続いて、最近登場した「三谷」が主人公の映画の話になるのですが、【やっぱり、名前が三谷である以上、どうしても感情移入してしまう。ある意味、これほどのめり込んだ作品はない】と三谷さんは書かれています。
 冗談交じりに「なぜ三谷にしたのか、ぜひ原作者に訊いてみたいところだ」とも。
 実際にやってみると、物語の架空の人物に名前をつけるというのは、とても大変なことのようなのです。以前、田中芳樹さんが『銀河英雄伝説』の作者あとがきのようなところで「ドイツ風の名前のストックが尽きてきて大変だ」というようなことを書いておられました。作家ではない僕たちからすれば、ストーリーを紡ぐことの難しさに比べて、登場人物の名前なんて、簡単なものなんじゃないかと思うのですけど、やっぱり「それらしい名前」を考え出すというのは、意外と難しいみたいです。さすがに「山田太郎」ってわけにはいかないだろうし(『ドカベン』もあるしね)、あまりにもどこにでもいそうな名前では読者のインパクトに残らず、あまりに奇をてらってしまえば、「そんな名前のヤツ、いないだろ!」と名前が出てきた時点で興醒めされてしまいます。主人公だけではなく、脇役にも「それらしい名前、役柄にふさわしい名前」をつけていかなければならないとしたら、それはもう、本当に大変な仕事ですよね。馬みたいに、ナリタさんちのブライアンズタイムの子供だから、ナリタブライアン、というわけにはいかないものなあ。
 それにしても、小説や映画、TVなどで、自分と同じ名前が呼ばれていると、良かれ悪しかれ感情移入してしまいますよね。この人、どこかで僕と血が繋がっているのだろうか?とか。子供時代は、悪役キャラと名前が同じだと、翌日の学校でイジメのネタにされたりもしていましたし。
 とはいえ、【自分で考えたのに、「なぜ私の名前を勝手に使うのか」と苦情が来ることもあるくらい】というのは、本当にお気の毒な話です。「あなたのことじゃないです」って言って、簡単にわかってくれるような人は、そんなクレームはつけてこないでしょうし。
 まあ、名前に限らず、ネット上に書いたことを「これは私のことですね!」と思い込んでしまう人、ときどきいて困惑することもあるのですが…