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2005年12月16日(金)
あるベストセラー作家の「読書のキッカケ」

「2006年度版・このミステリーがすごい!」(宝島社)より。

(「半落ち」「クライマーズ・ハイ」などの作品で知られる、作家・横山秀夫さんのインタビュー記事の一部です)

【仕事、そして組織をテーマの中核とする作品を多数出している現在を見れば、その考えも納得がいく。
 では、横山氏が新聞社へ入社したキッカケはなんだろう。やはり多くの作家と同様、物を書き、書を読むことに傾倒した少年時代を過ごしてきたのだろうか。

横山「とくにマスコミに強い関心があったわけではないんです。ただ、子どものころから文章を書くのが好きで、本もよく読んでいました。小学校時代には誰よりも図書館で本を借りる子どもで、”図書館王”などと呼ばれて。実際に書いてもいて、たとえば『フランダースの犬』の結末がどうしても許せず、犬を生き返らせるために物語の続きを自分で書いたりしていました。中学、高校、大学となると、陸上やサッカーなど、部活のほうに熱中してしまい、いったん読書から離れてしまうのですが、小学生のころはまぎれもなく本の虫でしたね」

では、そこまで読書に傾倒するキッカケとなったものは何か?

横山「それがですね、小学校の低学年のときに駄菓子屋で万引きをして、それが学校や親にバレてしまって(笑)。周囲の子どもの親たちが。”横山君と遊んじゃいけない”という空気になり、友達が全然いなくなってしまったんです。遊ぶ相手がいないから、本を読むしかなかった(笑)。ホームズやルパンから入って、世界文学全集のようなものまで片っ端から読みました。
SFも大好きでせっせと読んで、ひたすら空想の中に生きてましたね」】

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 いまや日本を代表するベストセラー作家のひとりである横山秀夫さんが、読書にハマったきっかけを語ったものです。まさか、「万引きがバレて、誰も遊んでくれなくなったから、本を読むしかなかった」とはねえ。
 まあ、この話が100%事実かどうかはわからないのですが、子どもにとっては学校での交友関係が世界のすべてみたいなところがありますから、そのときの横山少年の心境としては、まさに「本を読むしかなかった」のだと思います。学校で遊んでくれる友達がいなかったら、僕もきっと、空想の世界に生きるか、学校に行くことそのものを止めるかのどちらかを選んでいたと思うし。もちろん本が好きだからこそ、”図書館王”なんて呼ばれるほどになったのでしょうけど、もし、この「万引き」がなかったら、横山さんの読書体験は、ここまで切実なものにはならなかったのかもしれません。いくら本好きの子どもでも、やっぱり、友達に誘われれば、全部「お断り」というわけにはいかなかっただろうしね。
 この話を読んでいると、結局、「切実な読書体験」というのは、孤独な状況でないとできないのではないかな、とか考えてしまいます。そういう意味では、横山さんの小学校時代の万引きは、結果的には、「半落ち」を生み出すきっかけになった、ということになりますね。
 万引きをすればベストセラー作家になれる、なんていうものではないんだけど。