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2005年12月15日(木) ■ |
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今の若手はネタはいいけど、フリートークができない。 |
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「Quick Japan/Vol.63」(太田出版)の「総力特集・ラジオ」より、明石家さんまさんのロングインタビューの一部です。取材・文は、礒部涼さん。
(さんまさんが25年以上続けているというラジオ番組「MBSヤングタウン(ヤンタン)」について)
【インタビュアー:さんまさんにとって、「ヤンタン」とはどういう場所ですか? 例えば、自宅とか、あるいは実家とか……。
さんま:いや、オレの中ではトレーニング・ジムみたいなイメージですね。TVが球場。ラジオではオチまで辿りつくのにゆっくり40分かけられるから、その間に振りをひねったり、脱線したり、いろいろ試して筋肉を鍛えるという。
インタビュアー:さんまさんが今年の6月、「小堺一機のサタデー・ウィズ」(TBSラジオ)に出演されたとき、「今の若手はもっとラジオをやるべき。ラジオをやって、しゃべらないといけない状態に追い込まれなければいけない」と仰ってました。これはようするに、「ジムで極限まで自分を追い込まないと身につかないことがある」という意味ですよね。
さんま:そうですね。芸人はラジオをやらなきゃいけない、というのがオレの持論なんです。何しろ昔の「ヤンタン」は3時間でしたからね。3時間、フリートークで引っ張る苦労はもの凄かった。やっぱり鶴瓶兄さんとか、ラジオで揉まれた世代を観てると、フリートーク上手いなぁと思いますもん。今の若手はネタはいいけど、フリートークができない。
インタビュアー:いま、とくに若い人のラジオ離れが進んでいると言われていますが、さんまさんはどう思いますか。
さんま:今日、ラジオは実験場だとか、ラジオはジムだとかいろいろ言いましたけど、オレに限らず、芸人なら誰でも、ラジオでしゃべっているうちにいろんなことを思い付いて、それをTVで披露するということはあると思うんです。だから本当に野球好きなひとはトレーニングも観に行くみたいにね、本当にお笑いが好きならもっとラジオを聴いて欲しいと思いますね。
インタビュアー:では、最後に。さんまさんは「ヤンタン」をいつまで続けますか?
さんま:毎日放送さんが許してくれる限り。いや、「恋のから騒ぎ」は結婚するまで続けるって言ってるから、「ヤンタン」も結婚するまで続けることにしようかな。てことは、いつまでも続けることになりそうやね(笑)。】
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自他ともに認める、「しゃべりの名手」明石家さんまさんが語る「ラジオ論」、最近車での移動中くらいしかラジオを聴くことがなくなった僕にとっても、かなり興味深いインタビューでした。 僕が中高生の時代には、「オールナイトニッポン」などの深夜放送がまだまだ盛んでしたから、よくラジオを聴きながら勉強していましたが、実際のところは、ラジオを聴くために勉強しているフリをしていたことも多かったような記憶があります。試験前日に聴くラジオって、不思議なことに、いつもよりものすごく面白いような気がするんですよね。それこそ、「勉強どころじゃない!」というくらいに。 それにしても、送り手側から考えれば、「マイク1本で、パーソナリティの話と音楽だけで2時間も聴取者をひきつけ続ける」というのは、シンプルなだけにごまかしが効かない、非常に怖いものなのではないかな、という気がするのです。さんまさんが仰っている「しゃべらないといけない状態」っていうのは、パーソナリティにとって、やりがいがあるのと同時に、すごいプレッシャーであるにちがいありません。とにかく、自分が何かをしゃべらないと「放送事故」になってしまうのですから。 そして、「フリートークの申し子」であるさんまさんでさえ、「実験場としてのラジオ」を必要としているというのも、けっこう意外でした。傍からみていると、条件反射のようにすらみえるトークのために、日頃からラジオでトレーニングをしている、ということなんですよね。まあ、それは一種の照れ隠しみたいなもので、たぶんしゃべるのが大好きなさんまさんにとっては、「テレビではなかなかできない、自分にとって新しいことを存分にできる場所」でもあるのかもしれませんけど。
【今の若手はネタはいいけど、フリートークができない。】というさんまさんの言葉、読んでいてなるほどなあ、と思いました。フリートークだけが芸人の武器ではないでしょうけど、息が長い芸人や司会業などで稼いでいる人たち、たけしさんとか、タモリさん、ナインティナインなどは、みんな「オールナイトニッポン」などで、2時間くらいの長時間ラジオのパーソナリティの経験があるんですよね。もともと「フリートークが上手いから起用された」という面もあるのかもしれませんが、経験を積むことによって、技術が向上することは間違いないでしょうし、少なくとも、アドリブで場をつなぐのは上手くなるだろうな、と。さんまさんは、【昔、テレビの台本に「ここでさんま登場。キャラクターを生かした楽しいトークで、5分スタジオを盛り上げる」としか書いていないことがあって、さすがにそのときは放送作家をどついてやろうかと思った】とある番組で話されていましたが、そんな芸当、誰にだってできるわけじゃありません。さすがにその放送作家は手を抜きすぎだとは思うけど、確かに、ヘタな台本より「おまかせ」のほうが面白くなりそうだという判断も、わからなくはないですし。
現代は、夜になったら、ラジオを聴くか本を読むかの二者択一だった20年前ではなく、ビデオやDVDもあれば、ゲームやネットだってあるし、「夜はヒマ」なんていうことはない時代なので、ラジオというメディアにとっては、本当に難しい時代なのだと思います。でも、だからこそ、より「実験的な」ラジオというメディアには、まだまだ可能性がたくさん隠されているのかもしれません。 それにしても、さんまさんでも、やっぱりしゃべるのに「苦労」することもあるんですね。
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