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2005年12月14日(水)
おもしろいことに、女は男の顔を殴ってもいいけど、男が女の顔を殴るのはいけないの。

「週刊ファミ通」(エンターブレイン)2005.12.16号の映画『Mr.&Mrs.Smith』の紹介記事より。

(主役のスミス夫妻を演じる、ブラッド・ピット(ジョン・スミス役)とアンジェリーナ・ジョリー(ジェーン・スミス役)のインタビューの一部です)

【まずは、ブラッド・ピットさん。

インタビュアー:郊外に住み『Mr.&Mrs.スミス』と同じように退屈な結婚生活を送っている夫婦は、映画を観たあと暮らしに希望を持てると思いますか?

ピット:それはわからないよー。でもそれを喩えている映画だし。本当の”映画のおもしろさ”を、コメディータッチの下に隠している、人間関係をうまく表現した愉快な作品だとは思うよ。お互いを殺し合う状況に置かれたふたりが、自分をさらけ出し、相手を理解していくんだから。

インタビュアー:映画の中に、愛と人間関係についての、目に見えないレッスンがあると思いますか?

ピット:そんなのない、ない。僕はレッスンとやらからは離れたいと思っている。これは人間の本質を暴露し、そのプロセスが笑える映画だ。自分を見失うことは簡単だし、夫婦を結びつけた最初の想いも失われやすい。そして、それに対するマニュアルなどないってことだよ。

インタビュアー:なるほど。共演のアンジェリーナ・ジョリーについて、コメントをください。

ピット:ただただすばらしい女性だとしか言えない。偉大な女優で、本当に素敵な人です。

インタビュアー:映画のどこに惹かれて出演を決めますか?

ピット:それは、誰が準主役になるかによるね。スポーツだと、1着の人だけが栄光と賞賛を手にする。でも僕はいつも2番の人に魅了されるんだ。それがいちばんおもしろいと思ってね。


続いて、アンジェリーナ・ジョリーさん。

インタビュアー:この映画の観どころを教えてください。

ジョリー:すべてよ!最高なの。互いにもう愛情が冷めてしまった倦怠期の夫婦が、いつも隣にいる人を改めてよーく見るの。笑えて、男女の関係を表現していて、ブラック・ユーモアがあって、アクションに発展していくんです。

インタビュアー:ご自身は仕事をしやすいタイプだと思う?

ジョリー:共演者に聞かないとわからないけれど、やりやすいほうだと思う。映画制作はチームワークで成り立つし、それが大好きなんです。

インタビュアー:アザや傷を作ったそうですね。

ジョリー:ふたりとも傷だらけよ。いちばんたいへんだったのは家の中での戦いのシーン。不自然とか間抜けにみえないよう、それでいて恐ろしさも表現しないといけない。だから撮影に何日もかかったわ。ソファの影で殴り合っているシーンは、動きを再三考えた。おもしろいことに、女は男の顔を殴ってもいいけど、男が女の顔を殴るのはレーティング上(暴力描写などで異なる映画鑑賞の年齢制限)いけないの。だからちょっと矛盾があるかも。女は蹴っ飛ばしたり、物を投げつけたり、銃で男を撃ってもいいけど、男が女に攻撃するときは鏡越しとか、ソファで隔したりとかして、実際に女を蹴っている姿を見せてはならないの。その動きはおもしろいと思うけど、演じるときはとても面倒だったわ。】

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 先日この『Mr.&Mrs.スミス』を観たのですが、このインタビューでブラッド・ピットさんが話されているように、【本当の”映画のおもしろさ”を、コメディータッチの下に隠している、人間関係をうまく表現した愉快な作品】だと思いました。冷静に考えれば「ありえない!」と思うような展開もあるのですが、主役2人存在感もあり、素直に楽しめる映画です。
 そういう意味では、ブラッド・ピットさんの「レッスンとやらからは離れたい」という言葉には非常に好感を受けたのです。だって、「レッスンさせること」を志向した映画って、基本的に何の感動もないような気がするから。

 実は、僕はこのアンジェリーナ・ジョリーさんの「レーティングの話」を映画を観に行く前に読んでいたのですが、そういう視点で観ると、この映画のアクションシーンの「観せかた」は、ものすごく興味深いものでした。ダグ・リーマン監督は、アクションの演出には定評がある方のようなのですが、この映画の「夫婦の対決シーン」は、まさに「レーティングへの挑戦」だったのではないでしょうか。
 この映画の内容からすれば、スミス夫妻は「互角」の戦いをしてみせなければなりません。でも、「女性から男性への攻撃シーン」は問題なしでも(映画のなかでも、そりゃあもう「痛い!」というシーンの連続でした)、「男性から女性への攻撃シーン」には、厳しい制限が加えられます。そこで監督は、「直接傷つけるシーンを見せずに、いかに『痛み』を観客に伝えるか?」という目的を達成するために、さまざまな「直接は見えないけど痛そうな観せかた」をしているんですよね。こればっかりは、実際の作品を観ていただくしかないと思うのですが、そういう目でみると、「レーティングに合わせるのも大変なんだなあ」とあらためて感じます。あるいは、「アニメの『北斗の拳』かよ!」とか。
 まあ、考えようによっては、こういうのも「男女差別」なんじゃないかな、という気もするんですけどね。
 たぶん、世界の女性がみんな、アンジェリーナ・ジョリーだったら、こんな「レーティング」なんて必要ないだろうなあ…