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2005年12月13日(火)
「千葉の顔だね」と言われた女

日刊スポーツのインタビュー記事「日曜日のヒロイン」第493回・市原悦子さんの回の一部です。

【何げない一言が、忘れられない言葉になることがある。市原にとって、往年の二枚目スター森雅之さんの一言が、今も記憶に残っている。俳優座養成所時代、森さんが俳優座公演に客演した。ある日、あこがれのスターから楽屋に呼ばれ、どきどきしながら入っていくと、森さんは市原の顔を見つめて聞いた。「どこの生まれ?」「千葉です」「千葉の顔だね」。

 「どんな気持ちでおっしゃったんでしょうかね。悪意はなかったと思うんですけど。まだ、18か19でしょ。傷つきました。当時は顔に劣等感がありました。きれいに生まれたかったなと思ってましたから。でも、今考えると、何か欠陥がある方がバネになると思う。劣等感を乗り越えるために、何かを身に着けないといけないでしょ。だから、劣等感もマイナスじゃない。劣等感や欠陥というのがなければ、さらに上を見られないこともあるでしょう。満たされないものを満たしていきたいという思いが原動力になる。人の批判も同じ。どうしてそんなことを言うの、って怒ってしまえば終わりだけど、それをどう克服するかが大事なんじゃないかしら」。

 俳優座に入団し、初めての舞台「りこうなお嫁さん」で主役だった。共演は平幹二朗。「ハムレット」のオフィーリア、「三文オペラ」のポリー、「セチュアンの善人」の主役と、大きな役を次々と演じた。

 「若いからジタバタしながら、やってました。急性すい臓炎になった時も15日で退院して舞台を続けたし、足のつめがはがれてもやってました。ほかのことに目がいかなかったですね」】

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 20歳前の自分の役者としての未来に大きな希望を持っていた市原さんとしては、いきなり大先輩に「千葉の顔」なんて言われたら、さぞかしショックだったことでしょう。千葉の人には失礼ですが、この文脈だと、褒め言葉だとは思えないでしょうし…
 言われてから50年経っても、まだ覚えている言葉なんて、そんなにたくさんはないですよね。
 「悪意はなかった」というのも、そういう言葉って、悪意が感じられないほうが、かえって自然な感想なのだという気がして、かえって嫌なこともあるだろうしなあ。
 それにしても、この市原さんの【満たされないものを満たしていきたいという思いが原動力になる。人の批判も同じ。どうしてそんなことを言うの、って怒ってしまえば終わりだけど、それをどう克服するかが大事なんじゃないかしら】という言葉、何か言われるたびに、すぐ頭に血が上ってしまいがちな僕にとっては、「そういう考え方もできるのだなあ」と、あらためて考えさせられるものでした。そんなの「誹謗中傷」だとしか思えないような言葉なはずなのに。そういう「満たされないもの」に対して、自分の武器を磨いてきた結果、現在69歳になられても「市原悦子の世界」を維持していけるのでしょうね。どんなに若いころ美しかったからといって「家政婦は見た!」を22年間も続けてこられる役者なんて、そんなにいないはずだから。
 コンプレックスがあればこそ、それを乗り越えようとすることもできるのですよね。まあ、だからと言って、他人に「千葉の顔だね」とかいきなり言うのは、あまりに失礼だとは思うのですけど。
 それにしても、あらためて考えると疑問になってきたのですが、「千葉の顔」って、いったいどんな顔?