初日 最新 目次 MAIL HOME


活字中毒R。
じっぽ
MAIL
HOME

My追加

2005年12月12日(月)
「使わない」という「すき屋」の選択と戦略

共同通信の記事より。

【牛丼チェーン「すき家」を展開するゼンショーは12日、輸入再開が決まった米国産牛肉について「残念ながら日本の消費者に安心して提供できる段階ではない」「使いたいが使えない」などと、当面、使用を見送るとする見解を発表した。
 ゼンショーは独自の現地調査を踏まえ、(1)危険部位の完全除去が日本の基準から見て不十分(2)飼料規制も不十分(3)全頭検査をしなければリスクを取り除けない−などと指摘。「米国は感染牛がいないことを証明してほしい。それが生産者の責任だ」と訴えている。】

〜〜〜〜〜〜〜

 今日、アメリカ産牛肉の輸入再開が決定したわけですが、【米国産牛肉の使用をめぐっては、吉野家ディー・アンド・シーが輸入再開後1カ月半―2カ月で復活させる方針のほか、松屋フーズも品質と価格を考慮し、現在の中国産から米国産への切り替えを検討するとしている】のだそうです。アメリカ産の牛肉にこだわり、ごく一部の店舗を除いては主力商品の牛丼を販売できずに苦戦していた吉野屋にとっては、まさに、待ちに待った決定に違いありません。
 しかし、この記事を読んでいると、「牛丼受難の時代」にオーストラリア産牛丼で売り上げを伸ばした「すき家」は、「安全性重視」で、今後も当面はアメリカ産牛肉を使用しないことにしたようです。吉野家の社長が、「安い牛丼を復活させるためには、アメリカ産牛肉の輸入再開が必要」と、やや経済効率に重きを置いた発言をしていたのに比べたら、かなり好感度は高そうです。ちなみに、今回の輸入解禁の条件としては、【禁輸解除の対象はBSEの危険性を抑えるため、生後20カ月以下で、病原体がたまりやすい脳などの特定危険部位を除去した牛の肉に限定。
 米国は日本向けに輸出できる食肉処理施設の認定などに着手する見込みで、早ければ年内にも輸入牛肉が日本の消費者に届くことになる。ただ月齢条件などがあり供給量が限られるため、牛丼に使われるばら肉、牛タンなど、部位によっては品不足が続きそう】ということで、それなりの科学的根拠に基づいた判断なのでしょうが、その一方で、「政治的判断」もあったのだろうな、とは感じられます。「統計学的にはBSE感染の可能性が低い」としても、日本向けに輸出するのなら、国産牛と同程度の検査基準にするのが自然なのではないか、とも思いますしね。
 ただ、この話を読んで僕が感じたのは、この「すき屋の見解」というのは、おそらくアメリカ産牛肉で牛丼を再開するであろう吉野家をはじめとする競合各社に対する「差別化戦略」でもあるのだろうな、ということです。
 アメリカ産牛肉が入手できなくなったことで牛丼が出せなくなった吉野家に対して、オーストラリア産牛肉を使って牛丼を販売してアドバンテージを得た「すき屋」にとっては、今回の輸入再開を契機に、今度は「安全性」をアピールポイントにしようという戦略なのだろうな、と思われます。
 食べ物に関しては、最も重要かつ基本的なはずのことまで、「競争のためのアピールポイント」になってしまうという状況は、ある意味嘆かわしいことではあるのですけど、こんな時代ですから、確かにそれなりの説得力はありそうです。「そのほうが売れるんだったら、安全性重視!」みたいな印象もなくはないんですけど。
 最近、松下電器の「謝罪コマーシャル」が延々と流れていますが、あのCMにだって、「松下は安全性に気をつけていて、悪いことはちゃんと謝ってスジを通すメーカーですよ」という、積極的な意図も見え隠れしていますし。
 こういう記事を読んでいると、ビジネスの世界というのは、本当に「生き馬の目を抜く」ような世界なのだと実感させられます。昨日のハンデキャップも、今日のセールスポイントだものねえ。
 まあ、僕は忘れっぽい消費者なので、そういうのに対して違和感を抱きつつも、結局、再開されれば吉野家の牛丼を「だいじょうぶかなあ」とかブツブツ言いながらも、食べているような気もするんですけどね。