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2005年07月01日(金) ■ |
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「カットフルーツ」の誘惑 |
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「昼メシの丸かじり」(東海林さだお著・文春文庫)より。
(東海林さんが、はじめてスーパーで「カット西瓜(最初から一口サイズに切ってあって、プラスチックのケースに入っているスイカ)」を買ってみたときの話)
【つい最近まで、”西瓜をヨージで食べる”なんてことは誰も考えつかなかったはずだ。 サザエさんや波平さんが、西瓜をヨージで刺して食べていたか。 それならなぜぼくはスーパーでカット西瓜を買って帰ったのか。 なんていうか、一言では言えないが、 「ほんとにもう、しょうがないやつだ。連れて帰って説教の一つもしてやろう」 ま、そんな気持ちだった。 「西瓜をヨージで刺して食べるのって、どんな感じになるのかな」 という好奇心もあった。 買って帰ってプラスチックのフタを開け、ヨージを持ってきて一片を突き刺して口に入れてみる。 オッ、冷たい。オッ、甘い。オッ、ちょうどいい大きさ。 これ以上小さかったら口の中が寂しいし、これ以上大きかったら口に入らないという大きさ。 「シャクシャク。意外にこう、快適じゃないの。シャクシャク。買ってきてから、ヤレ包丁だ、マナイタだ、だのが一切なくて、いきなり口に入れられるところがいいな。シャクシャク。種子もほとんどないし、生ゴミも出ないし。シャクシャク。ゴックン。どれ、もう一個といくか」 いつのまにかヨージを持つ手の小指が立っている。 「シャクシャク。一切れの氏素性って、ぜんぜん気にならないな。シャクシャク。十五個の中に別の西瓜がまぎれこんでいても、かえって違った味でいいかしんないな。シャクシャク。これから丸ごと一個買ってきたときでも、カット切りにしてから食べたいな。シャクシャク」】
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あの「カットフルーツ」というものに対して「やっぱりなんだか不自然だよなあ」というイメージを持つ人は、けっして少なくないと思います。そもそも、見た目もあんまり美味しそうな感じはしないし、表面はちょっと干からびていそうだし。でも、「あんなの邪道だ!」「手抜きにもほどがある」なんて思いつつも、あれだけスーパーに並んでいるというからには、買っていく人も少なからず存在しているのでしょう。 だいたい、僕もこんなふうに「邪道」呼ばわりしていますけど、もしスーパーに頻回に買い物に行くような生活をしていたら、果物が食べたいときに、あのトゲトゲがついた立派なパイナップルや、大きな西瓜を抱えてレジに並ぶよりも、「カットフルーツ」を選びそうな気がしますし。 「果物なんて、洗って包丁で切るだけなのに、なんでそんなに不精なの?」という声が聞こえてきそうですけど、台所に立つことに慣れていない人間にとっては、その「包丁で切るだけ」というのは、けっこうめんどうで、大きなハードルだったりするのです。 これを書かれている東海林さんは、自分で包丁を握られることも多い「作るのも食べるのも好きな人」なのですが、それでも、【意外にこう、快適じゃないの】なんて仰っておられますし、省ける手間なら、省きたいのが人情というものです。この「カットしてある状態」に慣れてしまったら、抵抗感なんてアッサリ消えてしまうのかもしれません。 もちろん、それによって、その果物の味が落ちる可能性はあるとしても、その一方で、意外な「一口サイズであることによる新鮮な食感」というのもあるみたいですし。
もう15年くらい前になるでしょうか、「カルピスウォーター」が発売されたとき、僕は、「カルピスなんて、水で薄めるだけなのに、あんなの売れるわけない」と思ったものです。周囲の人たちも、大方は同じ見解だったと記憶しています。 しかしながら、「美味しい水」を使ったり、濃度を吟味したりした効果はあったのでしょうが、「カルピスウォーター」は、大ヒットとなり、定番商品として、今でもコンビニにたくさん並んでいます。「カルピスウォーター」以後にも、さまざまな新しい清涼飲料水が発売ましたが、実際のところ、今でもコンビニのドリンクコーナーに「定番」として生き残れたものは、ほとんどありません。 ビンで売られている「薄めるカルピス」をどんなに工夫して作っても、あの「カルピスウォーターの味」にはならないとは思うのですが、それでも、「薄めるだけの手抜き推進商品」は、いまや、「ビン入りのカルピス」よりも、はるかにメジャーになったような印象すらあります。
「そのくらい、みんな自分でやるだろう」というような「ひと手間」を省くというのは、簡単かつ安易なようで、ものすごく効果的な場合もある、ということなんですよね、きっと。 そして、その「手抜き」に慣れてしまうと、なかなか後戻りはできなくなってしまう。 そのうち、丸ごとのパイナップルやスイカを見た子供が、「ふうん、これが『本物のパイナップル』なんだ!」って、言うようになるのかもしれませんね。 今、ビン入りカルピスを見た子供が、「このカルピスって、カルピスウォーターとどう違うの?」と、スーパーでお母さんに訊いているように。
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