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2005年05月05日(木) ■ |
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ある「名物オーナー」の肖像 |
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スポーツニッポンの記事「ドキュメント パリーグ発 乱舞(91)」より。
(4月27日に亡くなられた、日本ハムの前オーナー・大社義規(おおこそ・よしのり)さんに関するエピソードの一部です。)
【「優勝という言葉を言ったことがなかった。ある納会で、自分は信念を持って会社をここまで育てた。君たちも絶対にできる、という言い方で選手を励ました。重圧をかけることがなかった。それなのに、優勝できず悔しかったはず。責任を感じます」と言うのは球団社長補佐、三沢今朝治である。「普通、近寄りがたいのがオーナーだが、うちは選手サロンで食事をするオーナーに選手が話しかけた。いいオヤジさんでした」 「チームが負けると、自分が球場に来たせいで選手が硬くなったのではないか、と気遣う方でした。だからオーナー賞の金一封だけ置いて帰ったこともあった」広報係長の中原信広の思い出だ。 こんなこともあった。序盤に味方の大量リードと聞いて、「それなら大丈夫だろう」と車で球場に向かったが、途中で逆転されてUターン。携帯電話などない時代、球場から試合経過を受けるために、自動車に無線電話をいち早く取り入れていたのだ。 「試合結果を電話報告するのが広報の日課だった。負けた日は辛いのですが、最後の慰め言葉はいつも同じでした。”まあ、ええやないか、また明日や”」 選手を気遣った大社もスカウトには厳しい態度を見せたこともあった。三沢は言う。「獲った選手が活躍しないことがあった。すると、全然出てこないじゃないか、300円のハムを売って2000万円、3000万円の大金を払い、これでは困る。選手の価値判断をしっかりしないと駄目だ」】
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日本ハムファイターズの名物オーナーであった、大社義規(おおこそ・よしのり)さん。本当に「野球好き」のオーナーだったという話は聞いていたのですが、ここで語られているエピソードを読んでいくと、大社オーナーの野球への愛情とともに、人間としての優しさ、甘さ、そして厳しさが伝わってくるのです。 なにかと「自分の球団」に対して口出しをしたがったり、自分の存在を誇示したがるオーナーが多いなか、大社さんは、「野球と自分のチームが好きで、本当はいろいろ言いたくて仕方ないんだけれど、選手たちがプレーしやすいような環境を整えるために、『陰の存在』であり続けようとした人」なのだと思います。 悪名高き某人気球団のオーナーや、某ニューヨークの金満球団の名物オーナーのように「金も出すけど、口も出す」というタイプの人とは、まさに対極の存在だったのでしょう。 その一方で、「金もそんなにたくさんには出せないし、結果もなかなかでない」というジレンマも抱えていたのかもしれないなあ、という気もしなくはないんですけどね。「300円のハムを売って…」の話は、まさに「正論」なのですが、その一方で、野球に詳しいオーナーが「選手獲得の難しさ」を知らなかったわけではないでしょうし、日本ハムというチーム自体が、「金に糸目はつけないから、最高の選手を獲れ!」という体質のチームではなかったですから。 それでも、こういう「人間としてのまともな金銭感覚」というのは、僕などにとっては、好ましく思える面ではあるのです。 やっと球界の改革が始まりつつあると思ったら、今度はソフトバンクの孫オーナーが「金に糸目はつけない」なんて言い出したりして、正直、僕などは野球への興味は薄れがちなのですが、やっぱり「自分のチームを持つ」というのは、堀江さんや三木谷さんならずとも、「ロマン」なのかもしれませんね。そして、そういう「ロマン」というのは、大企業の社長にまで上りつめた人でさえ魅了し、何かを狂わせてしまうのかもしれません。 楽天が今の戦力では「勝てないチーム」で、長い目でみなければならないことなんて、単なる一野球ファンである僕の目からみても当たり前のはずなのに、三木谷社長は坊主になったり首脳陣の責任を追求したりしているしなあ。 もっとも「怒ってみせなければならない」という面もあるんでしょうけど。 「負けて当然」と、自分の口からは言えないよねえ。
これからの時代は、大社オーナーのような「自分のチームに恋をしているオーナー」にとっては、どんどん難しい時代になっていくのでしょう。
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