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2005年01月06日(木)
その飲酒運転は、誰のせい?

読売新聞の記事より。

【埼玉県坂戸市で2001年、近くに住む大東文化大1年の正林幸絵(まさばやし・さちえ)さん(当時19歳)ら3人が酒酔い運転の車にひき逃げされ、死傷した事件で、正林さんの両親と2人の兄が、運転手の男性(35)(危険運転致死傷罪などで懲役7年確定)に加え、妻や勤務先の会社、同僚を相手取り、計約8100万円の損害賠償を求める訴訟を起こしていたことが分かった。
 加害車両の同乗者を運転手と共に提訴するケースはあるが、家族や同僚まで訴えるのは異例だ。
 訴えでは「常習的な飲酒運転を知りながら制止せず、助長した」としており、交通事件の過失に詳しい専門家は「飲酒運転ほう助のような積極的な関与が認められるかがポイントだ」と注目している。
 訴状や刑事裁判の記録によると、2001年12月29日未明、同県日高市にある建設機械リース会社の社員だった男性は、酒を飲んで正常な運転ができないことを認識しながら社有のライトバンを運転。時速約60キロで走行中、坂戸市花影町の市道で仮眠状態となり、帰宅中の正林さんら3人をはねて逃走。正林さんと女子短大生(当時20歳)を死亡させ、男子大学生(当時21歳)にも2週間のけがをさせた。
 男性の妻(38)は、男性が数年前にも酒気帯び運転で罰金刑を受けるなど日ごろから飲酒運転を繰り返し、事件当日も飲んで帰るのを聞かされていたのに、「注意して帰って」としか言わなかった。同僚(52)も当日、飲食店3軒で男性とはしご酒をして、男性が深酔い状態で車に乗るのを見ていたのに、止めなかった。
 こうしたことから、妻や同僚も、男性が飲酒運転で事故を起こすのを防げたのに、助長したとしている。
 男性の供述によると、勤務先の安全運転責任者を務める部長(64)は、社有車が居酒屋などに止めてあると立ち寄り、部下らの飲食代を払う一方、代行車を呼ぶなどの措置は取らなかったという。この部長は「『酔いをさましてから行けよ』という程度で、車の鍵を取り上げず手ぬるいところはあったが、黙認していたわけではない。事件以来、飲酒運転をしないよう社内で徹底している」と話している。男性の妻側は「話すことはない」としている。
 交通事件の過失論などに詳しい松本誠弁護士は、「飲酒運転への関与は、容認しただけでなく、積極的なかかわりがないと認定するのは難しい。だが、被害者側からすれば、責任は関与した全員にというのは当然の感情だ。危険運転致死傷罪が被害者らの声で出来たことを考えても、周辺者の責任が問われないのは不公平だろう」と話している。】

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 確かに、この20歳くらいの若者3人が、飲酒運転の常習者に撥ねられて命を奪われた事故のことを被害者の立場に立って考えると、この加害者の男性の「懲役7年」という刑事罰は、あまりに軽いという気がします。それが凶器だと知っていながら、ところかまわず振り回した結果2人の人間の命を奪ってしまったにもかかわらず、この程度の量刑だったのは、酷いですよね。
 日本は以前から「酔っ払いに甘い国」と言われており、最近の道路交通法の改正で飲酒運転に対する刑罰が重くなったのですが、それでもまだこの程度なのです。

 ただ、「周辺者の責任が問われないのは不公平」であるし、「どうして制止しなかったのか?」と感じる一方で、こういう状況というのは、今日も日本中のあちこちで起こっているのだろうなあ、とも感じるのです。飲酒運転の罰則が厳しくなったことによって、かなりマシにはなっているとしても。
 日本という国は(まあ、世界中の多くの国がそうかもしれませんが)、ごく一部の大都会を除いては、「車がないと生活できない」というところはたくさんあるのです。都市生活者にとっては、酒を飲んだら、電車で最寄の駅まで行って、あとはタクシーで帰ればいいや、ということなのでしょうが、交通網が発達していない田舎では、車で通勤というのが当たり前になっています。そして今でも、「仕事帰りに飲みに行く」人のうち、少なくない割合が飲酒運転をしているのです。もちろん、それが悪いことだと知りながら。
 田舎に住んで自家用車で通勤している人たちが、「仕事帰りに酒を飲む」場合、自分で車を運転せずに家に帰ろうとすれば「歩く」か「誰かに送ってもらう(あるいは迎えにきてもらう)」「タクシーの代行を呼ぶ」くらいしか方法はありません。歩いて帰れるほど近ければいいですが、そうでない場合、そんなに都合よく送り迎えしてくれる人なんていないでしょうし、代行にかかるお金もバカになりません。そんなふうに逡巡しているうちに、悪いことだと知りながら、「このくらいなら大丈夫」と飲酒運転をしてしまうわけです。
 そして、お酒を出す店のほうも「当店は車の運転をされる方にアルコールは出しません」と書いてある店がたくさんあるにもかかわらず、実際に、客が帰るところまでキチンとチェックする店員さんなんて寡聞にして見たことがありません。僕は以前「飲酒運転の罰則が厳しくなって、売り上げが下がって困る。本音を言うと、車を運転する人に全然酒を出さないようにすると、田舎ではやっていけない」」という居酒屋の店主の話をテレビで聞いたことがありますし、「飲酒運転をする客がいるのも仕方ない。自分たちだって稼いで生きていかなければならないのだから」という気持ちもあるのでしょう。つまり「飲酒運転をしないと、成り立たないようなシステム」が、この国には完成してしまっていたのです。
 おそらく、この加害者の妻だって、「飲酒運転が悪い」なんてことは、百も承知のはずです。過去に罰金刑を受けていたわけですし。でも、こういう常習犯の場合「いくら注意しても聞かない」という状況だったことは十分に考えられるのです。「そんな男とは別れなさい!」と言いきれればいいのかもしれませんが、実際にはなかなかそうはいかないでしょうし、「どっちにしても言うことを聞いてくれないのなら、気をつけてね、くらいしか言いようがない」のかもしれないし。
 上司にしたって、「こういう人が飲酒運転で事故を起こす確率」と「口うるさく注意して、人間関係にヒビが入る可能性」などを考えると、「なんとかして止めさせる」という判断をしなかった理由もわからなくはないのです。そもそも、相手もいい大人なんだから、いくら安全運転責任者だからといって、上司が「飲み代を払ってやった」上に「代行まで手配する」必要性があるのかと言われたら、それは「過保護」なのではないかな、とも思います。それこそ「自己責任」なのではないかと。
 「もし代行を呼んでいたら、若い2人の命は奪われなかったのに!」と憤る御遺族の心境はよくわかります。「どうして周りの人は止めてくれなかったんだ!」という気持ちも。
 でも、その一方で、今の日本の「飲酒に対する寛容さ」というのは、まだ「飲酒運転をして帰る人を制止するのは不粋だ」と考えている人がたくさんいる、というレベルであり、飲食店も、家族も、周りの人も、本人さえも、「飲酒運転の危険性」に対する認識が低いこと甚だしいし、そういう意味では、この妻や部長は、一種のスケープゴート的な印象もあるのです。それこそ「みんな流れに乗ってスピード違反をやっているのに、なんで自分たちだけ切符切られるんだ、どうせならみんな捕まえろよ!」みたいな心境なのかなあ、とか想像してみたり。
 肝心の警察ですら、どこまで本気で飲酒運転を取り締まろうと考えているのか、疑わしくも思えますしね。本気なら、それこそ居酒屋の出口に張り込んで飲酒運転できないようにすればいいはずなのに、そのあたりはなんとなく「地場産業保護」みたいな馴れ合いになってしまうし、乗る前に注意しては罰金を取れないから、「予防措置」にはあまり積極的でないような印象すら受けるのです。

 今後の「アナウンス効果」というものを考えれば、この妻や上司に賠償責任あり、という判決が出たほうがいいのは間違いないでしょう。とはいえ、その「連座制第一号」になる人に対しては、正直「ちょっとかわいそうな気もしなくはない」のです。本来、お酒なんて、自分の責任で飲まなければならないもののはずだし、彼らも積極的に飲酒運転を奨めていたわけではなさそうだし。
 とはいえ、少しずつでも、今の世の中の「飲酒運転を生み出す負の連鎖」と変えていかなければならないのは確かです。こういう事故って、被害者にはもちろん、加害者にとっても、まさに悲劇なのですから。
 そして、そのための最良の方法は、やっぱり個々の自覚以上のものはありません。嫌がる人の口に無理やり酒を流し込む居酒屋店主や飲酒運転をしてこないと機嫌が悪くなる妻なんて、いるわけないんだからさ。
 そう、僕が、あなたが、ほんの少しだけ自覚を持てれば。

 「3億円当たるかもしれないから、宝くじを買う」くらいなら、「事故を起こすかもしれないから、酒を飲んだら代行を呼ぶ」ほうが、よっぽど有益かつ確実なお金の使い方だと思うのですが…