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2004年11月29日(月)
僕たちの「ドラクエ」と彼女たちの「ヨン様」

産経新聞の記事より。

【二十六日午後零時十分ごろ、来日中の韓国の人気俳優、ペ・ヨンジュンさん(32)が宿泊していたホテルニューオータニ(東京・紀尾井町)の正面玄関近くで、ペさんを見ようと集まったファンの一部が転倒、十人が軽傷を負った。同ホテルによると、ペさんは事故後、「迷惑をかけた」と宿泊予定をキャンセルし、チェックアウトした。
 ペさんは来日に備え、今回のような事故を憂慮して総額百億ウォン(約十億円)を超える傷害保険に加入しており、負傷者の治療費は保険から支払われる見込み。
 警視庁麹町署の調べでは、負傷者は四十三−五十一歳の女性。現場では約千人のファンがぺさんの出発を待っていたが、正午ごろ、ホテル側が混乱を避けるため、ペさんがホテル内にいるにもかかわらず「出発しました。解散してください」とアナウンス。
 ファンが帰りかけたところ、ペさんを乗せた車が正面玄関から現れ、ファンに取り囲まれたまま約三百メートル走行。大分県から来た女性(51)はタイヤに足をひかれたという。事故の瞬間、悲鳴と歓声が交錯。携帯電話や靴が散乱し、パニック状態となった。
 ホテルや警視庁の打ち合わせでは裏口から出る予定だったが、ペさん側は事前の合意を守らず正面に現れたという。


≪事故で予定イベント中止 「胸痛む」ペさん、笑顔なく≫
 「事故が起こってしまい、笑顔で応えることができません。申し訳ない」。ぺさんは六本木ヒルズ(東京都港区)で会見し、深々と頭を下げた。約三百人の報道陣を前に約十分の会見では沈痛な表情。
 「徹夜でホテルの前で待っている人たちを無理に帰すことはできませんでした」「非常に残念で胸が痛む。ファンの方が大きなけがでないよう祈っています」。ほほ笑みの貴公子、といわれた「ヨン様」から笑顔が消えた。
 ペさんは都内で開かれる写真展や写真集の宣伝のため二十五日に来日した。この日は六本木ヒルズで、二十七日から始まる写真展の内覧会に出席するため、ホテルニューオータニを出た。事故で、ぺさんが出席する予定だったテープカットやトークショーなどはすべて中止となった。
 年末恒例の「ベストドレッサー賞」を選考する社団法人日本メンズファッション協会はこの日、ペさんをインターナショナル部門で受賞者に選んだ。二十九日に帰国するため、三十日の授賞式は欠席する。】

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 この「ヨン様」フィーバー、40代くらいの女性が中心になっているそうなのですが、こんな事故まで起こってしまって、ほんとうにバカバカしい感じもします。スタッフも、そんな状況で正面から出てくればリスクがあるということは承知の上で、それでも「熱狂的なファンに囲まれるヨン様」の映像が欲しかったのかな、とか勘繰ってしまいもするのです。来日前に100億ウォン(訳10億円)の損害保険にも加入していたそうですから。
 それにしても、今回のヨン様の「誠実な」対応は、「怪我人が出るかもしれない」のを承知の上だったのかもしれないとしても、たいしたものだなあ、とは思ったんですけどね。
 ただ、世間では、この「ヨン様フィーバー」を面白おかしく連日報道しているのですが、今朝のワイドショーでは、ヨン様の追っかけをやっている女性たちの半数くらいは、以前にもジャニーズのアイドルとか宝塚などの「追っかけをやるような、熱狂的ファン」だったそうです。そして、彼女たちは、「ヨン様は私のもの!」というような感じではなくて、むしろ、「ヨン様」というのはあくまでも偶像で、その「追っかけサークル」の一員であることを楽しんでいるかのように、僕には思えました。「ヨン様」というのは、中年女性が追っかけをやっても許される対象でしかないのかな、という気もします。「若い頃のときめきを取り戻したみたい」と言うのは、本当は「ヨン様のおかげ」ではなくて、「ときめきを取り戻したい」という気持ちが先にあって、ヨン様というのは、そのためのツールでしかなかったのかもしれません。相手が好きになっての恋愛というよりは、恋愛したいから相手を探すとか、そんな感じ。
 それにしても、ヨン様というのは、よくできた人ですよね。今回の事件に対する対応も誠実だし、ファンも大切にしています。でも、そういう「完璧さ」みたいなのって、完全に今の日本の芸能界とは逆行しているのです。今は、「普通の人っぽい芸能人」のほうが人気が出る時代ですし、「裏の顔」とか「私生活」を売り物にしている人もたくさんいます。もしヨン様が日本の芸能界にいたら、「リアリティがない、本音が伝わってこない人」として敬遠されていたのではないでしょうか?そういう意味では、「ヨン様」というのは、この女性たちにとっては「誠実な男性像」というよりむしろ、「古き良き時代のアイドル像」を投影するのにふさわしい存在なのでしょう。今の日本にはいないタイプ、なのではなくて、「今の日本では売れないタイプのプロモーションのやりかたが新鮮」だっただけのことかも。
 「ヨン様」というのは、僕たちの世代にとっての「ドラクエ」みたいなもので、もはや、本人の魅力の域を超えて「誰かとコミュニケーションする(友達をつくる)ためのツール」になっている面もありそうです。「ヨン様」という共通項で、仲間作りをするほうが目的になっている人も多いのではないでしょうか。僕の学生時代の記憶では、何かのファンになるのって、その対象そのものを自分で好きになるというよりは、その対象を好きな友達になんとなくつきあっているうちに夢中になってしまう、というパターンが多かったですから。

 いや、僕だって、1万5千円の写真集が5万部即日完売するくらい儲けさせてもらえれば、ファンを大事にだってするし、満面の笑みだってがんばってつくりますし、いくらでもサービスしそうな気もするんですけどねえ。