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2004年11月15日(月)
「一緒に酒を飲むこと」への過剰すぎるこだわり

共同通信の記事より。

【愛知県警港署は15日までに、自分の誘いを断ってほかの人と飲酒していた部下に腹を立て、車でひき殺そうとしたなどとして、殺人未遂の現行犯で、名古屋市中川区小碓通、運送会社役員中原守隆容疑者(34)を逮捕した。
 調べでは、中原容疑者は13日深夜から14日未明にかけ、同市港区のパブで部下の三浦政光さん(29)=三重県四日市市別名=に殴るけるの暴行を加えた上、店の前の路上で乗用車を三浦さんの背後から低速で2度ぶつけた疑い。三浦さんは顔や手足に軽傷を負った。
 中原容疑者は三浦さんを飲酒に誘って断られた後、社外の友人と2人でこのパブを訪れ、会社の同僚と2人で飲んでいた三浦さんを見つけたという。】

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 このニュースを聞いた後だと「そりゃ、こんな上司と一緒に飲みに行くのは嫌だよなあ」と思う人ばかりなのではないでしょうか。一般的に、酔っ払ってトラブルを起こす人というのは、「常習犯」であることが多いようですし。
 この34歳の会社役員のやったことは全くもってトンデモない行為で、到底許せないことなのですが、その一方で、この上司の怒りの原因というのは、僕にもなんとなく理解できます。
 「一緒に飲みに行こう」と誘った部下が、「すみません、今日は用事が…」と言って自分の誘いを断ったにもかかわらず、他の同僚と飲みにきているという「浮気現場」を目撃すれば、やっぱり腹も立つでしょうから。
 もし、この部下が一緒に飲んでいた相手が部下の恋人だったりすれば、おそらく「付き合いの悪いヤツだな」と苦笑しこそすれ、こんなトラブルにはならなかったような気がするんですが。
 この場合の「自分の誘いを断って、他の同僚と飲んでいた」という状況ほど、「自分のことが嫌い(もしくは、疎ましいと思っている)」という真情を表している光景はありません。「飲みに行く時間があった」にもかかわらず、この部下は自分より同僚を選んだわけだし。
 部下の立場からすれば、上司のお酒に付き合わされるというのは、けっして心楽しいことばかりではないでしょう。そういうお酒が好きな人もこの世には存在するのですが(中島らもさんは、若い頃、そんな「つきあい酒」の名手だったそうです)、大部分の人は、「楽しいフリをするのが上手いか下手か」という違いだけだと思います。この上司の場合、どうも、「自分の若いころは…」というような自慢話とともに、延々と説教しそうなタイプだろうし。
 「そういう付き合いも仕事のうち」という上司は、現代でも少なくはないかもしれませんが、今の若者の本音としては、多くの人が「なんで仕事場以外でも、上司に奉仕しなければならないんだ…」なんじゃないかなあ。
 こう言ってはなんですが、今の若者は上司と酒を飲みに行くより、家でゲームをやったりDVDを観たりしているほうが楽しい、という人も多いのです。ひょっとしたら、「上司のお酒に付き合う」というのは、夜にやることが無かった時代の遺物なのかもしれません。僕もそんなに付き合いが悪いほうではないと思うのですが、誘われたときに「この間は断ったから、今日あたりは付き合っておいたほうがいいかな」という計算を無意識にしてしまうレベルの「付き合いのよさ」ですから。

 とはいえ、この部下のほうも、「遠慮させていただく」のであれば、その日は飲みに行くのは自粛するとか、せめて上司が行きつけの店は避けるというくらいの「配慮」は必要だったかな、とも思うのです。ここまでやる凶暴な上司はそんなにいないでしょうが、こういう気まずい光景は今夜も日本中で繰り返されているのでしょう。
 上司からすれば、これほど露骨な「自分への嫌悪感を実感する行為」というのはあまりない感じがします。とくに「酒好きの人」にとっては、「酒の誘いを断られる」という他人の行為には、かなり「自分を否定された」ような印象を受けるようです。飲み会を好まない人がイメージする「ご遠慮します」とは、かなり大きなギャップがあるんですよね。

 自分で思いこんでいるほど、酒好きの人って、「性質の良い酒飲み」ではないことが多いのです。そして、飲み会に興味がない人が考えているよりはるかに、酒好きの人というのは「誰かと一緒に酒を飲むこと」にこだわりを持っているのです。
 この両者のあいだの壁は、日頃感じている以上に高いものなのかもしれませんね。