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2004年11月10日(水)
その女は隣で、ほんとうは何を考えているのか

「ダ・ヴィンチ」2004年12月号(メディアファクトリー)の特集「江國香織をもっと知りたい」より。

(最年少で芥川賞受賞を受賞された綿矢りささんから、江國さんへの質問)

【綿矢:『マミーカー』から『熊とモーツァルト』までの『文学界』での連作小説、それから『間宮兄弟』などには熱心に野球観戦する男の人が出てきますが、江國さんはそういう男の人をどう思いますか?描写からなんとなく愛を感じるような気がするんですが……。

江國:どうだろう。熱心に野球観戦する男、というのは、反恋愛なイメージがあります。そういう男の人の隣にいると、私なら淋しくなるんじゃないかな。でも、そういう男の人を優しく眺める女の人に、ちょっと興味があります。男が野球に熱中しているあいだ、その女は隣で、ほんとうは何を考えているのか、とか。】

〜〜〜〜〜〜〜

 僕は、綿矢さんの質問のなかに出てくる、江國さんの小説中の「熱心に野球観戦する男」の描写を読んだことはないのですが、自分を省みると「熱心に野球観戦をする男」の部類である僕としては、なんだかものすごく興味深いやりとりでした。
 こういうのって、「野球観戦」に限らず、「電器屋のパソコンコーナーでいつまでも動こうとしない男」とか「競馬場でオッズが表示された画面の前で、ずっと考え込んでいる男」にも、あてはまるに違いありません。
 世間には、いろんな女性がいるのだし、「正解」なんてないのかもしれませんけど、「自分の趣味じゃない場所で、自分のことを見向きもせずに何かに夢中になっている男」と一緒にいる女性というのは、どんな気持ちなんでしょうか?
 僕の場合は、買い物に付き合わされても、「ちょっとオレ、本屋で待ってる」とか言って逃げてしまうパターンも多いのですが、世間のカップルには、相手のことをいつまでもその場で待っている女性って、けっこういるような気がします。正直「趣味じゃない場所で、ああやって付き合わされているのって、あんまり面白くないだろうなあ」なんて他人事としては思うんですけど。
 とか言いながら、僕だって美術館で、一緒に来た人に「足が痛い!」と言われるまで気がつかずに絵を観ていて「しまった…」ということもありますから、偉そうなことは言えません。野球場で酔っ払ってクダまいたりされたら、「最悪!」って感じだろうなあ。

 「一緒に待ってるよ」ってパートナーを優しく眺めている、というタイプの女性はけっして少数派ではないのでしょうが、僕は「そういうのって、つまらなくないのかな?」とか、つい思ってしまうのです。
 「ひょっとして、優しい女だと思わせようとする計算なのでは…」なんて、ひねくれた考えが、頭をよぎってみたりもするし。

 「そうやって、何かに熱中しているあなたが好きなの」とう言葉の裏で、ほんとうは、何を考えているのだろう?

 だいたい、付き合いが長くなってくると「ああ、勝手に行ってくれば」って話になるんですけど……