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2004年11月02日(火)
あんたたちは、犬か!

「ああ、腹立つ」(阿川佐和子ほか・新潮文庫)より。

(有名人たちの「腹が立つこと」に関するショートエッセイ集の中から、阿川佐和子さんの「お犬様時代の憂鬱」より。)

【あるとき、飼い主の手から離れた大型犬が紐を引きずりながらこちらに飛んできた。誤って紐が手から滑り落ちたのだろうが、犬のほうは大喜びだ。解放感のあまり、あっちの家の壁、こっちのビルの入り口めがけて好き放題に放尿し、そのあげくに私に突進してきたのである。思わずキャッと悲鳴を上げたところ、飼い主は私に謝るどころか、「こら、○○ちゃん」と愛犬の名を呼ぶばかりで、ようやく紐をつかむと、ヘラヘラ笑って通り過ぎていった。
 犬好き人間の最大の欠陥は、自分の犬を愛おしく思うがあまり、こんなかわいい犬を愛おしく思わない人間はいないと信じていることだ。犬が怖いと思っている人や、犬にそれほど愛情を感じない人間もいるということをまったく考慮していない。
 だいたい、飼い主同士の会話を聞いていると耳をふさぎたくなりますね。
「まあ、エリザベスちゃんのお母さん」
「あら、ミケランジェロちゃんのお姉ちゃんだあ」
 あんたたちは、犬か!】

〜〜〜〜〜〜〜

 この「あんたたちは、犬か!」には、思わず吹きだしそうになりました。確かに、犬の母親やきょうだいは犬のはず。
 それはさておき、僕も以前実家で犬を飼っていたので、やっぱりかわいい(そしてときには憎たらしい)生き物であるというのは理解しているつもりです。本当に、「家族の一員」という感じですし。
 よく世間で言われている「犬に服なんか着せやがって!」というのも、正直違和感はあるのですが、飼い犬というのはけっこう寒がりで、うちの犬は寒くなるとコタツに入りこんできたりしていましたから、犬の本心としては、「じゃまだけど暖かいしなあ」とか考えているんだろうか、とか思うこともあるのです。ドックフードより美味しい肉とかのほうが好きだし、番犬やっているよりは、家でゴロゴロ(+ときどき散歩)しているほうが好きなんだなあ、と感じましたし。
 
 「動物好きの人に、悪い人はいない」なんて言葉もありますが、それは一面の真実であると同時に、困った面も併せ持っているような気がします。「自分を悪い人だと思っていない人は、けっこう迷惑な人であることが多い」ですから。
 僕の知り合いに、大の犬嫌いの女性がいて、その理由は「小学校時代に友達が犬に噛まれたのを目の前で見たから」なのだそうです。こうなるともうトラウマともいうべきもので、いくら周りの人が「犬ってかわいいのに」と説得しようとしてみたところで、その先入観というのは、なかなか拭い去れるものではないと思います。そりゃ、嫌いにもなりますよね。
 でも、世間の「動物好きの人」は、自分の分身でもある愛らしく巨大な「エリザベスちゃん」を散歩させているとき、「エリザベスちゃん」が彼女のほうにじゃれて飛びかかっていっても、「あーらごめんなさいねー」とか、そういう感じのことが多いのだそうです。彼女は、身震いするほど怖い思いをしているというのに。
 「嫌煙権」とがあるなら、「嫌犬権」だってあってもいいはずだ、と感じている人は、けっして少なくはないと思われます。
 「人間のようにかわいがっているし、家族と一緒」おと言ってきながら、こういう悪戯や糞の処理などに関しては、「だって、犬なんだもの、しょうがないじゃない」という態度の人は、けっして少なくないような印象があるのです。
 「犬のやることなら、なんでも許せる」なんていう「良い人」ばかりではない、ということを愛犬家の人々は、理解しておくべきでしょう。
 ものすごく可愛いのは、よくわかるんだけど、他人に強要できない愛情っていうのもあるのだから。
 とはいえ、「ミケランジェロちゃんの飼い主さん」というのも、ちょっとヘンではあるよなあ。

 そんなことを言いながら、あまりにキチンとしつけられていて、飼い主の命令どおりに完璧に「動く」犬を見ると、それはそれで「動物らしくなくて、かわいそうだなあ」とか僕もつい考えてしまうんですけどね。