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2004年09月17日(金) ■ |
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ライブドアと宮城県の歪んだ愛情 |
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河北新報の記事より。
【ライブドア(東京)が新規参入球団の本拠地に選んだ県営宮城球場(仙台市宮城野区)は、老朽化が目立ち「プロ野球が最も嫌う球場」とも言われる。宮城県は建て替えを含めた整備促進を掲げながらも、財政難や周辺地域整備との兼ね合いから棚上げ状態。建て替えの機運が一気に高まることも予想される。が、県は「(参入が決まった)次の話」(浅野史郎知事)とビジョンを描けておらず、参入問題そのもののアキレスけんにもなりかねない状況だ。】
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この記事を読むまでは、僕は「ライブドアが仙台に新球団をつくる」という発想には、そんなに悪いイメージを持ってはいなかったのです。堀江社長は目立ちたがりな人だなあ、という印象はありますし、あれだけ「近鉄を買収する!」とぶち上げて、大阪ドームで「ホリエコール」を一身に浴びておきながら、球団合併が基底路線で覆すことが難しく、「楽天」が神戸を本拠地にして新球団を立ち上げるという話が出たとたんに、今度は仙台を本拠地に、というのは、なんとなく不誠実な感じはしますけど。 近鉄ファンにとっては、「あの人は、近鉄を助けようと思っていたわけじゃなかったんだなあ…」という無念さだけが残っているかもしれません。 いや、堀江社長自身も、最初から「近鉄にこだわらない」旨の発言をされてはいたんですけどね。
でも、この記事を読むと、「ライブドアは、この県営宮城球場の実情を、どこまで把握しているのだろうか?」と疑問に感じてしまうのです。そして、ライブドアを迎え入れる側の宮城県は、「とりあえず参入が実現したら、球場の問題については考える」という態度で、「地元にプロ野球チームができることは歓迎だが、自分の腹を痛めるつもりはない」というように僕にはみえます。 そもそも、球場の建て替えとか新球場の建設には莫大な費用がかかり、維持費だってばかになりません。近鉄の経営を圧迫している要因のひとつは、年間10億円ともいわれる大阪ドームの使用料であるというのは周知の事実です。 広島カープの本拠地である広島市民球場などは、老朽化がひどく、「ベンチで異臭がする」なんて悪評が選手のあいだではあがったりもしたそうです。「新球場建設」は球団側やファンにとっては、まさに「悲願」なのですが、行政側はなかなか動いてくれません。そんな莫大な費用がかかり、しかも大阪ドームのようにかえって赤字になってしまうリスクを抱えた事業を自治体がやるべきかどうか?というのは、なかなか難しい問題です。 僕のような野球ファンだけが住んでいるわけではないし、「そんな金があるなら、もっと他の『みんなのためになること』に使うべきだ」という言葉に対して、決定的な反論というのは不可能でしょう。 実際に現存するプロ野球チームが本拠地にしている球場だってそんな感じなのですから、まだ海のものとも山のものともわからない「新球団・ライブドア」の新しい本拠地球場に対して、50億、ましてや500億なんてお金を投資するのは、正直難しいだろうな、と思います。 そもそも、宮城県側は「自分たちはお金を出す気はない。ライブドアが出してくれるんだろ?」と公言しているも同然なんですよね。 そしておそらく、ライブドア側は、「仙台にチームを作ってあげるんだから、地域は諸手をあげて準備を整えてくれるんだろ?」と楽観的な認識をしているのではないでしょうか? もちろん、実際に仙台にプロ野球チームができれば、地元の人たちが球場に押し寄せて人気球団になり、新球場建設もスムースにいく、という可能性だってあります。とはいえ、新しい球場なんて、計画・着工から完成までに何年もの歳月がかかるでしょうし、それまで、そんな「設備不足の球場」で積極的にプレーしたがる選手が、そんなにたくさんいるとは思えません。そんなチームが、魅力的な野球を観客に提供できるのでしょうか? とりあえず地元のチームだから、という理由で、みんな無条件に応援するものなのだろうか?
本当に「球団買収」ではない「新球団」をつくろうと考えているのなら、もっと地元となる地域とのコミュニケーションをしっかりとっておくべきですし、「仙台が空いているから、仙台にする!」というような発想は、かえって信頼を失くすような結果になりかねません。 日本ハムファイターズのような、野球チームとして組織的には既に完成しているチームでさえ、札幌移転には長い準備期間もかかりましたし、お金をかけて補強もしています。 さらに、札幌ドームという器は、すでにそこにあったのです。逆に、札幌ドームという器が、日本ハムの本拠地移転を大きく後押ししたのもまちがいありません。地元の自治体だって、「球場を活かすために、プロ野球チームを必要としていた」のですから。 選手については、メジャーリーグで球団が増えたときには、他のチームからドラフトで選手を獲得してスタートしました。しかしながら、今の「ライブドア」というチームに入りたいと思う野球選手は、現存の12球団から戦力外となった人か、他球団から声がかからなかったアマチュア選手だけでしょう。残念ながら、現存のプロ球団の協力がなくては、やっぱり厳しいと言わざるをえません。
「ゼロからの挑戦」というライブドアの姿勢は、正直「(ネタとしては)面白い!」とは思いますし、仙台の人々だって、「プロ野球チームがあればいいなあ」という気持ちを持っている人はたくさんいるでしょう。 でも、だからこそ、本気であるなら、もっと慎重に物事を進めるべきなのではないかな、と僕は感じています。「楽天」へのライバル意識にわれを忘れては、自ら墓穴を掘る可能性が高そうなので。 誰も救おうとしなかった近鉄を救うために立ち上がった堀江さんは、けっして悪人でも、無能な人でもないと思いますが、中途半端な善意は、かえって他人を失望させてしまうことも多いのですよ。 話題になって、株価が上がって、社長が有名になればそれでいい、というのなら、それはそれで仕方ないですけど、IT産業というのは、「情報」を扱っているのですから、長い眼でみれば、一番大事なのは「信頼」のはずなのに。
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