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2004年08月31日(火)
近鉄が「集客下手」なのか、それとも「儲からない商売」なのか?

「Number 609」(文藝春秋)の記事「合併→1リーグの虚しさを知って欲しい。」(ナンバー編集部・文)より。

【だいたい近鉄の経営が破綻したのは誰のせいでもない。近鉄のせいです。よく選手の年俸が高いと取りざたされますが、これは要因の一部にすぎません。近鉄の赤字は年に約38億円。選手会所属の人件費は約19億円。これを約半分の10億円に削ったって、まだ30億円近い赤字が残る。収入が少なすぎるんですよ。ファンを球場に呼ぶマーケティングが全く下手なんです。
 近鉄の小林(哲也)球団社長は、意見交換会の場で球団の努力の内容について、「選手を集めてファンの集いをやった。けれどもイベントをやるには金がかかるから、より財務体質が悪くなった。ファンが球場に来やすいようにチケットの割引をした。単価が下がってより状況を厳しくしてしまった」と説明しました。しかしスポーツマーケティングの理論からすると、これは当然の失敗です。中村紀洋選手の人形を作って先着3000人に配ってみた。その試合では観客が増えたが、その顧客にさらに別の試合に来てもらう誘因のきっかけを作ることができない。効率が悪すぎる。人形を配るなら、なぜそこで顧客のデータを集めないのか。例えば人形のプレゼントは抽選にして1万人に応募してもらう。そこで細かくファンの嗜好をデータベース化すれば、球団はいくらでも有効に使えるんです。岩隈投手が先発の時には岩隈ファンの会員に先発の予告をすることもできる。選手からのメッセージをファンに配信することもできる。IT技術の進歩で顧客に対するアプローチコストが下がっている現在、それを活用しないのは怠惰と言っていいんじゃないでしょうか。】

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 実際には、どこの球団もそれなりに手を打ってはいるとは思うのですが、確かに、この近鉄の赤字額を考えると、「これでは、どうあがいても黒字になりようがない」というのが本音なのではないでしょうか。選手の年俸は、僕は「高すぎる選手がけっこういる」とは思いますけどね。
 それでも、仮に選手が全員タダ働きしたとしても、年間20億円も赤字になるというのは、「なぜ?」という感じがします。
 「王ヤメロ」と罵声をとともに生卵が投げつけられてきた時代からダイエー・ホークスを観てきた僕としては、いまや「福岡の宝」になってしまったのは、まさに隔世の観があるのです。ただし、それは「強いチームを作るために投資をして、福岡ドームという魅力的な器をつくった」という、努力の結晶でもあるわけなのですが。
 それでも、ダイエー球団は赤字で(実際、福岡ドームはいつもほぼ満員みたいなので、このチームはやっぱり年俸が高すぎるのかもしれません)、売却の噂が絶えません。
 野球チームの運営というのは、ここまで「儲からない商売」なのでしょうか?
 もっとも、「オリックス」とか「ニッポンハム」なんていう企業名は、もし球団を所有していなかったら、はるかに知名度は低いでしょうから、そういう意味では「宣伝効果」という点では、かなり価値が高いとは思うんですけどね。
 僕は「マーケティング理論」には疎いですし、一観客としては、ことあるごとにアンケートに協力を求められるような野球観戦にはあまり魅力は感じませんが、ここに書いてあるような「企業努力」は、ひとつの方向性なのではないでしょうか?不思議なことに、球団の経営者たちは、経営の専門家のはずなのに、「球団経営は金食い虫」という先入観に凝り固まって、「黒字にできる(もしくは、赤字を宣伝効果で相殺できる)可能性」をまともに探ろうとしていないようにも見えます。
 場当たり的な対策をやって「やっぱりダメだ」なんて言われても、そんなの当たり前です。

 その一方で、野球というのは斜陽産業なのではないか、という気がするのも事実。
 観客動員数はともかく、テレビの視聴率は毎年下がる一方ですし、優秀な選手はどんどん特定球団やメジャーリーグに流れていってしまいます。
 そもそも、巨人戦なんて、僕が子供のころは「自分の贔屓チームの途中経過を知るために」観ていたりしたものですが、現在ではネットでいくらでもリアルタイムの情報を知ることができますし、テレビがなくてもビデオもゲームもあるのですから、好きでもない巨人の試合をわざわざ観る義理なんて全くありませんから。

 ところで、この文章を読んでいると、「ライブドア」というIT企業そのものは、社長のいかにも売名っぽい振る舞いを考えなければ、「新世代の球団経営母体」としては、かなり向いている企業なのではないかな、と僕には思えてきました。
 「自分のメディアでお抱えチームの情報を集中的に流すことによって、そのチームへの注目度をアップさせると同時にそのメディアそのものも利益を得る」というのは、まさに「読売方式」で、「新時代の読売方式」をやるためには、IT企業というのは、ものすごく有利ですしね。

 でもね、本当に「スポーツマーケティング」とやらが、ファンを幸せにしているかといわれると、僕はちょっと疑問なのです。
 「企業の宣伝にもなるし、地元の人たちに喜んでもらえたらいいよ」っていうような「タニマチ体質」と「年俸が高すぎる選手は、即自由契約」というようなシビアな球団経営を比べるれば、いくら「考えが旧い!」と言われても「本業がボロボロで、球団経営で金儲け」って企業よりは、「本業がしっかりしていて、球団経営はあくまでも地域社会への還元」という企業にオーナーになってもらいたいなあ、と思うのは、あまりに日本的な発想なのかもしれませんけど。