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2004年07月04日(日)
「バーベキュー」という名の幻想

「さくらえび」(さくらももこ著・新潮文庫)より。

【小さなバーベキューセットに火がつけられ煙がもくもく出てきた。サンルームの扉は全開にしてあるが、それにしてもけむったい。
 皆、顔をしかめて黙っていた。時々ヒロシが「けむいな」と言うだけで、しばらく煙を見ているしかなかった。
 少し煙がおさまったところで、肉を焼いてみることにした。肉はたちまち焼け、家族は大あわてで肉を食べることになったが、肉の味は良くなかった。ヒロシは「煙の味がするな」と言い、母もそれに同意した。息子は肉を食べようとすらしなかった。
 そうこうしているうちに、それまで晴れていた空が突如雲に覆われ、雷と共に大雨が降ってきた。
 なんだなんだと大騒ぎになり、サンルームの扉が閉められた。サンルーム内に煙が立ちこめ、室内は暑苦しくなってきたがバーベキューに火がついているからこの場を離れられない。
 雷がゴロゴロと鳴り、汗がダラダラ流れ、肉は煙臭くておいしくなく、野菜は黒くコゲていた。こんな状態で楽しい会話なんてこの家族達とはずむわけもなく、時は無駄に流れていった。】

〜〜〜〜〜〜〜

 「ちびまる子ちゃん」の作者・さくらももこさんが、自宅での「バーベキュー体験」について書かれたものです。
 「自宅のサンルームでバーベキュー」なんていうのは、まさに「庶民の夢」というような贅沢なイメージがあるのですが、実際はこんなものなのかもしれません。
 以前、東海林さだおさんも「バーベキュー」について書かれていたのですが、「バーベキューでは焼肉屋みたいに火加減を調節できるわけではないから、肉は生焼けか真っ黒コゲになりやすいし、外だと暑くて虫はたくさん飛んでくるし、ビールはすぐぬるくなるしで悲惨だった」という内容でした。
 僕もたまにそういう場に誘っていただくことはあるのですが、確かに、あああいうベーべキューというのは、「ハイソな雰囲気」を楽しむものであって、現実はこんな感じなんですよね。
 外国映画の野外パーティみたいに、専属の料理人がいるならともかく。
 夏の海辺でのバーベキューでも、手間はかかるし、そんなに美味しいわけではないし、暑いし、後片付けは大変だし。
 雨にまで降られてしまったのは、不幸としか言いようがないのですが…

 「華麗な生活」というのは、実際はそんなに楽しくないのかもしれませんね。
 真夏でも涼しい顔でスーツを着こなしている人だって、けっして本当に「涼しい」わけではないのと同じように。