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2004年05月14日(金)
サケの死因と「人類」としての矛盾

「感染症病理アトラス」(堤寛著・文光堂)より。

【サケは、急流をさかのぼり、排卵および射精をするとまもなく死亡する。下垂体前葉壊死による急性下垂体機能不全症が死因である。セミも交尾・排卵を終えると、その短い生涯を閉じる。がんを含めた成人病が50歳以上のヒトに急激に増加するのは、いってみれば、きわめて自然な現象なのである。医療を始めとするさまざまな人間科学の進歩・普及は、間違いなく私たち「人間」(個人)の生活に快適さをもたらしてくれているが、いったい、「人類」という哺乳動物の種の保存に本当に前向きに貢献しているといえるのだろうか。】

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 僕はサケが生まれた川をさかのぼって死んでしまうのは、「体力の消耗」が原因だとずっと思っていました。サケの死因が「急性下垂体機能不全」だったというのは驚きです。
 考えてみれば、本当に疲労が原因であれば、どんなにサケが力を振り絞って排卵・射精をしたとしても、体力のある個体は生き延びそうですものね。

 確かに、「種として長続きすること」というのを考えると、現在の人類が行っている「医療」という行為は、過剰なものなのかもしれません。「種を存続する」という観点からは、生殖が不可能な年齢になってから何十年も生きるよりは、生殖不能になるのと同じくらいに死を迎えて世代交代していくほうが、食料や環境のためにはプラスなのかもしれませんし。
 少なくとも、「生殖不能になってから長生きする」というのは、「人類」という動物の「種の保存」にとっては、そんなに大きなメリットではないんですよね。逆に、医学や衛生観念が発達する前の時代は、人間は「種として死ぬべきときに死んでいた」と言えなくもないのです。
 人間は一度にたくさんの子供を生めませんし、サケのように誰かに守られたり、教えられたりしなくても大人になれる(そのかわり、生存率はものすごく低い)生き物ではありませんから、「排卵および射精」をすると死亡、というわけにはいきませんけど。

 しかしながら、人間が「文化」というのを持っているのは、ひょっとしたら、この「動物としてはオマケの時間」の賜物なのかもしれないですね。
 そういう、本来はないはずの時間を少しでも充実したものにするための、一種の代償行為という面もあるのでしょう。「灰になるまでオンナ」とか言うけれど、そこまでいくと「本能」というより「観念」のような気がするし。

 ただ、「種としての人類」はさておき、自分自身のこととなると、やっぱりみんな「なるべく元気で長生きしたい」「死にたくない」というのが本心なのではないでしょうか。
 そう考えると、これ以上の医学の進歩は、「人間」には貢献できるのでしょうけど、「人類」にとってプラスになることなのかどうかは、なんともいえないところです。

 戦争で何人もの子供が爆弾1個で命を落としている一方で、1人の年老いた命を助けるために何人ものスタッフが不眠不休で努力しているというのは「種としての矛盾」ではあるのでしょうね。
 とりあえず目の前のことをなんとかするしかない、というのも、ひとつの現実ではあるのですが。