初日 最新 目次 MAIL HOME


活字中毒R。
じっぽ
MAIL
HOME

My追加

2004年05月10日(月)
「Winny」は包丁か、それとも拳銃なのか?

毎日新聞の記事より。

【パソコンのファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」を開発し著作権のある映画やゲームソフトなどの違法コピーを手助けしたとして、京都府警ハイテク犯罪対策室と五条署は10日、著作権法違反ほう助容疑で東京都文京区根津、東京大助手、金子勇容疑者(33)を逮捕した。金子容疑者の自宅など数カ所の捜索にも着手した。東京大大学院情報理工学系研究科も近く、捜索する。ファイル交換ソフトの開発者が逮捕されるのは国内初で、世界的にも異例という。
 調べでは、金子容疑者はそれまでインターネット上で流通していたファイル交換ソフト「WinMX」よりさらに匿名性が高いソフトを開発しようと計画。02年4月にインターネットの掲示板「2ちゃんねる」にソフト開発を発表し、同5月に自身のホームページに「ウィニー」ソフトを無料で公開。03年11月、著作権のある映画やゲームソフトをインターネット上に無断で公開したとして府警が摘発した群馬県高崎市の自営業者(当時41歳)と松山市の無職少年(同19歳)=同法違反罪で今年3月、有罪判決=の違法行為の手助けをした疑い。
 金子容疑者は同掲示板などで「ネット上でデジタルコンテンツが取引されるのはやむを得ない」と発言。「自らが著作権侵害をまん延させることで新たなビジネスモデルを模索できる」などと主張し、236回にわたって「ウィニー」のバージョンアップを繰り返していたことから、府警は違法性を十分認識していたと判断した。】

記事全文はこちらです。

〜〜〜〜〜〜〜

 僕は「Winny」というソフトのことは知ってはいるのですが使ったことはありません。
 使わなかった理由は「とくに必要性を感じなかった」というだけのことなのですが。
 実際に使っている人に聞くと「面白くてやみつきになる」そうですけどね。
 ちょうど「アナログからデジタルへ」の過渡期に生きてきた僕にとっては、「違法コピー」というのは、常に身近なところにあったような気がします。
 最初は、パソコン(当時は「マイコン」とみんな読んでいましたが)のゲームソフト。当時から5千年〜1万円くらいしていたマイコンのゲームは、当時のマイコン少年たちにとっては高嶺の花で、多くのユーザーは「レンタルショップ」でゲーム(+コピープロテクトを外すソフト)を借りて、ゲームをコピーして手に入れていたものです。中には、ゲームで遊ぶことより、「プロテクトを外すこと」のほうに面白味を感じるようになってしまった人もいたみたいですが。
 「貸しレコード」の場合は、デジタルデータのような「完璧なコピー」ではないにしても、やはりみんなそのレコードをカセットテープに録音して聴いていたものですし。
 でも、パソコンのゲーム業界は、コピーによって衰退の一途を辿りました。
 どんな良質のソフトもあっという間にコピーが出回ってしまって、開発者には利益をもたらしません。そして、真面目にオリジナルを買おうという人は、そのオリジナル版の値段の高さに二の足を踏んでしまいます。
 「真面目に商品を買ってくれるユーザーが、違法コピーしているユーザーの分まで払わなければならないような価格設定」では、真面目に買おうとする人はバカバカしいと思うでしょうし、「儲からない」「食えない」のなら、開発者だって「やってられない」のです。
 それで結局、パソコンゲームの世界は衰退の一途を辿ったのです。
 もちろん、ファミコンをはじめとする家庭用ゲームの繁栄で、その居場所を失ったという背景もあるにせよ。

 現在は「CDが売れない時代」だと言われています。コピーコントロールCDでもなければ、普通の家庭用パソコンで簡単にCDが複製できるようにもなりましたから、売り上げが落ちるのも当然といえば当然でしょう。ただ、あのコピーコントロールCDというのは、CDを買う側からすれば、「どうして自分で金を出して買ったCDなのに、自分のパソコンで仕事中に聴けないんだ!」というような苛立ちもあるのです。

 「匿名性が高いファイル交換ソフトを開発・公開することは犯罪なのか?」というのは、非常に議論が分かれるところです。今回の件でも「開発者が著作権法に対する挑戦的な言動を繰り返していなければ、逮捕という結果にはならなかったかもしれませんし。

 「よく切れる包丁で人を刺したからといって、包丁の作者は罪に問われるのだろうか?」とパソコン好きの友人に僕は尋ねたのですが、彼は「Winnyは、包丁というよりむしろ拳銃みたいなもので、『使用目的が限定される』から、仕方ないかもね」と答えてくれました。
 しかし、「Winny」でやりとりされるものが、著作権フリーのオリジナルのファイルであれば、それは拳銃ではないはずですし、問題は作者だけではなく、利用者にもありそうな気はするのですけどね。それでもやっぱり、「拳銃」をタダで配ったりするべきではないのでしょうか?

 コピーをめぐるいたちごっこは、それこそ20年くらい(まあ、贋作とかパクリとかそういうレベルまでいくと、有史以来とかになりそうですが)も続いているものだし、そう簡単に無くなるものではないでしょう。
 ただ、「パソコンゲーム」というひとつの文化の盛衰を見てきた人間としては、やっぱり良いものを創った人間にはそれなりの対価が与えられるべきだと思うし、「コピーしたほうが得!」みたいなのはやっぱり危険だと思うのです。
 違法コピーのせいで、良質の音楽や映画ソフトが失われたら寂しいことこの上ないですし。
 そして、今までのメーカー側の「買ってくれる客」にばかり負担をかけるような方法も間違ってはいるんですよね。正直者がバカを見る、というのは、腑に落ちない。

 メーカーも買い手も、「良識」が必要な時代になってくるのは間違いありません。今後は「技術的にコピー不可能」というのは、ほとんど実現できないレベルの話だと思うし。
 
 でもねえ、「1998年に比べて、去年のCDの売り上げは3分の2になった」と言われていますが、実際に3分の2の人々は、こんな「タダ同然でコピーできる時代」でも、オリジナルを「買って」いるんですよね。
 たぶん、多くの人は、まだ「好きな歌手だからオリジナルのCDを買いたい」というような情緒的な「良識」を持っているのだと思います。
 それでも、その「良識」にばかり頼ってもいられないし、この堂々巡りは続いていくのでしょう。
 「Winny」が無くなっても、同じようなソフトは必ず出てきますし、どう考えても「悪用」以外に使い道ないんじゃない?ってソフトは、けっして「Winny」だけではないんですけどね。