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2004年04月13日(火) ■ |
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キムタクと宮崎アニメと「声優」という仕事 |
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スポーツニッポンの記事より。
【宮崎駿監督(63)の新作アニメーション映画「ハウルの動く城」で主人公の1人、ハウルの声をSMAPの木村拓哉(31)が担当することになった。12日、配給の東宝が発表した。木村は声優初挑戦で「完成した“ハウルの動く城”が早く見たい」と意欲を見せている。また、ヒロインのソフィーに倍賞千恵子(62)、荒地の魔女には美輪明宏(68)が決まった。】
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そうですか、キムタクですか…という感じなのですが。 「役者」としての木村拓哉さんに関しては、様々な評価があるのは間違いないでしょうが、彼が当代随一の「視聴率を稼げる男」であることに異論を挟む人はいないと思います。出演したドラマが軒並み20%台後半から30%台に達する役者は、今の日本では他にはいないわけですから。 でも、今回の「声優」としての起用は、ちょっと疑問なんだよなあ。
実際に過去のスタジオ・ジブリの作品にもたくさん有名な役者さんや文化人などが出演していて(そういえば、昔とんねるずと杉本清さんがやっていた「ハンマープライス」というオークション番組に、「ジブリ作品への声の出演権」というのが売りにだされたこともありました)、それはそれで、作品のひとつの「アクセント」になっていたところはあると思うのです。「千と千尋の神隠し」では、菅原文太さんが「釜爺」の声をあてていたり、「となりのトトロ」では、糸井重里さんがお父さん役をやっていたり、「おもひでぽろぽろ」では、今井美樹さんと柳葉敏郎さんが、主役をやっていましたし。 その一方、最近は、「声優」という職業も「声の演技」だけではなかなか難しいところがあるみたいで、とくに女性に関しては、「アイドル並みのルックス」が求められたりもするみたいなんですよね。 僕が昔、「機動戦士ガンダム」のシャアの声をやっている人の写真をみて「えっ、このオッサンが…」と絶句したようなことは、最近の声優界ではほとんど無いのではないでしょうか。 もちろん、「どうせなら声だけじゃなくて、見かけも良い」という付加価値があるのは、悪いことではないんですけどね。
でも、こういう傾向というのは、ちょっと寂しいというか、「じゃあ、本職の『声優』って何なのだろう?」とも考えるのです。 「声優って、声だけの仕事だからラクなんじゃない?」という印象を持たれがちなのですが、実は、「声だけでいろんなことを表現する」というのは、すごく専門的で、大変なことなのではないでしょうか。僕は今、臨床医と基本的には「診断書」という文書でのやりとりだけでコミュニケーションをとる仕事をしているのですが、逆に「文書だけ」となると、細かい言い回しや誤字・脱字に関して、ものすごく気を遣います。例えば、日頃顔を合わせている医者と患者であれば、多少のいさかいがあっても、「あの先生は日頃一生懸命やってくれているから」なんて、気持ちを抑える場合もあると思うのです。もちろん、逆の場合もあるでしょうけど。 しかし、「診断書一枚の関係」というのは、「そこにあることがすべて」なわけですから、その内容にミスがあれば、何の言い訳のしようもありません。そういうのは「特化した専門職」の怖いところなのです。 きっと「声優」という仕事は「声だけですむ仕事」というよりは「声だけでなるべくたくさんのことを伝えなければならない仕事」で、プロの声優さんたちは、そのために並々ならぬ苦労と努力をしていると思うんですよね。
「ジブリ作品の主役」というのは、「声優という仕事の頂点」にあたるものではないか、というのが僕のイメージです。きっとたくさんの「プロの声優」たちが、それを目標にしているのではないでしょうか。 でも、「ハウルの動く城」での主人公役は、「声優」という仕事に関しては門外漢の木村拓哉さんに決まってしまった。 もちろん、ヒットすることが宿命づけられてしまっているジブリ作品としては、少しでも話題になるキャスティングをするのは当然のことなのかもしれませんが、「作品の質」という観点からすれば、「声の仕事のプロ」がやった方が良いのではないか、と考えるのは僕だけでしょうか? 今までの作品でも、本職の声優さんではない人が演じた声は、なんとなく画面から浮いていたような印象がありました。「隠れキャラ」的なものなら良いかもしれませんが、さすがに主役というのは…
僕はもっと「プロの声優」を大事にしてあげてほしいな、と思います。 「声優」というのは、そう簡単に初挑戦でうまくやれるような仕事ではない気がするのです。 それに、やっぱり「キムタクの声」だと、どうしても主人公=キムタクというような先入観が大きくなりそうだし。 「個性」がイメージを限定してしまう場合もあるわけですから。
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