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2003年12月05日(金)
2万回斬られた男

サンケイスポーツの記事より。

【知る人ぞ知る、斬られ役俳優、福本清三(60)がトム・クルーズ(41)主演の「ラスト サムライ」(6日公開、ワーナー・ブラザース配給)で世界デビューを果たす。時代劇の斬られ役ひと筋40数年、その回数は2万回を超えるが、4日、京都市内で「自分でも夢やったんかと思うほど、すごい経験だった」と世界デビューの喜びを語った。渡辺謙(44)がアカデミー賞助演男優賞の呼び声が高いが、こちらのサムライも見逃せないゾ。

 トム演じる米軍人に影のように付き従う男。それが映画「ラスト サムライ」での福本だ。

 東映の大部屋出身で斬られ役ひと筋だった福本は「田舎の高校生が甲子園に出るようなもの。夢かと思うほど、名誉なことだった」と忘れられぬ経験になったという。

 常にトムの近くにいることもあり、劇中もツーショットの場面が多い。福本が見たスーパースターの素顔とは? 「国民性かもしれないけど、明るい方でした。エキストラにも気を配って、『暑い中ありがとう』と声をかけたりしてました」と意外なほど気さくだったという。

 「日本のスターさんなら、ここまでやるのかな」と思うほどで、「映画は1人ではできないということをよく分かっているんでしょうね」と、ひと筋縄では成功しないハリウッドスターの大変さを垣間見たよう。

 プレミア試写会のためトムが来日した先月20日に再会。もう一生会うこともないだろうからと「日本で応援しているからがんばって」と通訳を通して、話しかけたところ、トムからの返事は「NO、清三…ハリウッド…」とだけ聞き取れたという。「はっきり分からないけど、ハリウッドに来いって言ってたんでしょうか」とトムからの思わぬ“ラブコール”を受けたことを告白していた。

 世界デビュー作の公開を目前にひかえた現在は、再び毎日テレビ系「水戸黄門」などをはじめとするテレビの時代劇を中心に出演。「僕らは与えられた仕事を、一生懸命やるだけ。そのことの積み重ね」。“世界の斬られ役”となった福本は、きょうも斬られ続けている。】

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 2万回斬られた男、福本清三。僕は、この人の名前を知りませんでした。
 でも、この記事からうかがえる福本さんの役者としての美学には、なぜかすごく心を打たれたのです。

 よく、「悪役にはいい人が多い」なんて言いますよね。まあ、それが真実かどうかは、僕は実際につきあいがないからわかりませんが、彼らが、下積みの苦労を知っている人たちである、というのは確かだと思います。
 それに、「斬られる役」は、僕たちが思っているほと簡単なものではないんじゃないかなあ、という気がするのです。

 例えば、大勢の人が長縄跳びの記録に挑戦するときに、僕たちの目は、跳んでいる人たちに集まりますよね。
 でも、実際は、「縄を回す人」の技術に、その長縄跳びの成否がかかっていることが多いのです。他のスポーツの例えで言えば、野球でピッチャーの投球を活かすも殺すもキャッチャーのリード次第という面がありますし、外科の手術でも、術者の技術はもちろんですが、助手の熟練度によって、スムースさはかなり違ってくるのです。僕は内科ですから、術者をやったことはありませんが、外科の先生によると、状況を判断しながら必要な器材を最良のタイミングで手渡したり、術者がみやすいように術野を広げてあげたり、という仕事をする助手の実力の違いで、やりやすさは全然違うということでした。
 助手が上手いと、術者が操られているような感じ、らしいです。

 様式美重視の時代劇では、悪役は悪役らしくなくてはいけないものです。水戸黄門の悪代官や必殺仕事人で中村主水に斬られる悪党は、視聴者から見て、「なんてヒドイやつだ!」と思われなくては存在意義がありません。
 それに、ある程度は強くないと、へっぴり腰で弱そうな悪党を正義の味方が「虐殺」するような感じでは、それはそれで視聴者としてはちょっと引っかかったりしますし。
 たぶん、福本さんは、「より憎たらしい悪党になるにはどうすればいいのか?」とか「視聴者がスカッとするためには、どんなふうに斬られたらいいのか?」とかをずっと研究してこられたのだと思います。
 それはまさに、主役を活かす、至高の匠の技。
 斬られ役一筋、40年。

 この記事を読んで、僕はこの人が大好きになってしまいました。
 「スターさん」なんて呼び方も、なんだかとても謙虚な感じで、同じ世界にいながら「自分とは違う人種だ」とずっと思ってこられたんだろうなあ、なんて。

 しかし、あんまり福本さんに感情移入してしまうと、時代劇がつまらなくなるかも…