初日 最新 目次 MAIL HOME


活字中毒R。
じっぽ
MAIL
HOME

My追加

2003年11月11日(火)
それでも、激安パソコンが欲しいですか?

毎日新聞の記事より。

【大手商社「丸紅」が運営するインターネットのショッピングサイトで先月末、パソコンの価格のケタを誤って10分の1の1万9800円と打ち込んで表示し、約1500台の注文が殺到した。誤りに気付いた同社が、注文した約1000人にキャンセルを依頼するメールを送ったところ抗議が相次ぎ、同社は10日、表示通りの激安価格で販売することにした。同社は損害額を明らかにしていないが、ゼロ一つの打ち損じが単純計算で2億6700万円の損害となった。

 パソコンはデスクトップの新型で、実際の販売価格は19万8000円。10月31日に担当者が価格を入力した際、誤って1万9800円と打ち込んだ。今月2日にインターネットの掲示板に「激安パソコンが売っている」との情報が書き込まれたこともあり、注文が集中した。同社は翌3日になり、価格を訂正した。

 同社に送られてきたメールは「契約は成立している」「丸紅を信用して買った」など、キャンセルに抗議する内容が大半だった。対応を検討していた同社は全員に1万9800円で売ることを決めた。

 消費者問題に詳しい佐藤彰一弁護士は「誰が見ても間違いと分かるケース。民法95条の『錯誤に基づく契約無効』に該当する」と話す。

 これに対し、丸紅広報部は「契約無効に該当するとは思うが、会社の信用を重視した。圧力に屈したのでない」と話している。】

〜〜〜〜〜〜〜

 これを読んで、おそらく「注文しとけばよかった…」と思っている人がたくさんいるのではないでしょうか?もちろん僕もそのひとりなのですが。

 昔の中国に、こんな話があります。
 ある大国の君主が隣国を攻めて勝利を収め、講和会議で領土の割譲が決まりました。しかし、まさにその調印が行われようとした瞬間、敗れた国の将軍が大国の君主に跳びかかり、「割譲した領土を返さないと、命がないぞ」と脅迫したのです。大国の君主は、命の危険がありましたので、「わかった、返す」と返事をして解放され、その会議は終わりました。
 その後、君主が腹心の宰相に「あれは脅迫されてした約束だ、言うとおりにする必要はあるまい」と告げたところ、宰相は首を横に振って、このように答えました。
 「陛下、約束通りに領土を返却なさいませ。ここで領土を奪い返すことはたやすいことですが、それよりも、『脅迫された約束でも、自分は信義を守る』ということを天下に示すほうが、はるかに大事なことです」と。
 のちに、その君主は「覇者」として天下に号令するようになったのです。

 今回の丸紅の行動は、2億7000万円の損害と引き換えに、大商社としての「信義を守る」というものだったのでしょう。それはそれで、立派な行為ですし、これによって、「丸紅」に対する消費者の信頼は上昇するに違いありません。
 まあ、そういうプラスの効果が、2億7千万円に値するかどうかは別として。

 でも、今回のことは、ちょっとどうかなあ、とも思うのですよ。
 このショッピングサイトの担当者は、ゼロひとつの打ち間違いで、会社に2億7千万円もの損害を与えてしまったわけです。間違いなく、クビもしくは良くても左遷、ヘタしたら損害賠償を請求されたりするのではないでしょうか?
 「19800円って、書いてあったじゃないか!」とか購入者は言うけれど、本当にその価格であるとみんな信じていたのかどうかわからないのに、そんなミスに乗じてクレームをつけまくるのは、なんというか、ちょっと酷いなあ、という気もします。
 もちろん、ミスした丸紅側が悪いんでしょうけど…
 ミスはあってはならないことですが、ゼロをひとつ間違えるなんてことは、日常生活でもそんなに珍しいことではないでしょうし、僕だってやらないとは限らない。

 もし、あなたの家の近くのY田電器に、「パソコン、19800円!」というポップが立っていて、「売ってくれ!」と店員に言ったところ、「すみません、198000円の間違いでした…」と謝られたら、どうでしょうか?
 「ここに書いてあるじゃないか、この値段で売れ!」って、ゴネまくる人は、そんなにいないと思うんですよね。もし店員さんが「すみません、すみません」なんて土下座でもしようものなら、大部分の人は「もういいです」と矛を収めてしまうのではないでしょうか(というか、そうであってもらいたい)。
 でも、今回はそうはならなかったのです。
 メールを通じてのコミュニケーションというのは、お互いに顔が見えない分だけ、とげとげしいものになりがちです(逆に、丁寧すぎるくらいになることもありますが)。
 日頃は他人に対して優しい人でも、ついついキツイことを書いてしまったりするのも、よくあることです。
 たぶん、「顔の見える相手に対しては言わないこと」を書いて丸紅を責めた人も多かったんじゃないかなあ…
 
 このケースは、明らかに「常識外れ」なので、丸紅側も謝罪は必要にせよ、19800円でパソコンを売る必要はなかったと、僕も思います。
 実際、こういう先例があると、小さな企業では、怖くてネットショップなんて開けなくなっていくのではないでしょうか。
 逆に、一桁多く書かれていたのを間違って注文する可能性だってあるわけですよね、消費者としては。
 もちろん、その場合はキャンセル可能なんでしょうけど、ネットショップでも実際に商品を売っているのは人間なのですから、売り手も買い手も、お互いにある程度は節度を持ってやっていかないといけないような気がします。
 大企業とはいっても、それを構成するひとりひとりの社員は、ごく普通の人間なのですから。

 他人の人生を台無しにしてしまっても、激安パソコンが欲しいですか?