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2003年10月11日(土)
カーナビの意外な使い方。

「ああ言えばこう行く」(阿川佐和子・檀ふみ著、集英社文庫)より。

(阿川さんと檀さんの往復エッセイ。これは、「車の運転」について、阿川さんが檀さんにあてて書いたものです)

【「かわいいでしょ、このカーナビ。運転しながらおしゃべりできて、楽しいよお」
 どこが楽しい?私は憤慨しつつ、カーナビの声を無視して直進すると、今度は、
「リルートを開始します」
 何言ってんだ、こいつ?
「もう一度、検索し直すって言ってるの。今、一生懸命、考えているのよ。健気よねえ」
 考えてくれなくてもけっこうだ。道のことはわかっている。余計なことを、この忙しいときに甘ったるい声で話しかけないでもらいたい。
 「前方、左へ曲がります」
 ウルサイんだよう。私は道を知ってるんだってばあ。
 とうとう私は最後まで、カーナビの指示に逆らい続けた。家に到着し、運転席を持ち主に返す。するとダンフミは別れ際、手を振りながらこう言った。
 「どう、あなたも買ったら、便利よ」
 本当に便利なのだろうか。ウチへ帰って考えた。わからない。ただ、一つだけ利点があるのは確かである。カーナビと闘っていたおかげで、車外の車に悪態をつく暇がなかった。
 もしかしてカーナビがあれば、私の運転対人関係は平安に保たれるかもしれない。】

〜〜〜〜〜〜〜

 現在、カーナビの普及率って、どのくらいなのでしょうか?
 方向音痴には定評のある僕としては、「カーナビって便利だなあ」といつも思うのですが、なかなか設置するには至らないのです。一度つけてしまえば、無くてはならないものなのかもしれないけれど。

 僕が最初にカーナビというのを目にしたのは、今から6年ほど前のことでした。
 先輩の車についていたのですが、画面に地図が出て、しかも「300メートル先を右に曲がってください」などと女の人の声で事前に教えてくれる親切さ。
 これで、助手席の女の子との「ちゃんとナビしてよ!」というトラブルもありません。
 まさに、夢の機械。

 しかし、しばらく運転していると、勝手が違うのです。
 先輩は、カーナビの指示を無視して、運転しています。

「左へ曲がってください」
「そっちはこの時間は混むんだよ!」
「右へ曲がってください」
「この状態で、車線変更できるわけないだろ!」

どうも、先輩とカーナビは、仲が悪いようです。

「ほんと、うるさいんだよなあ、これ」
知っている道に関しては、カーナビというのはけっこう煩わしいものみたい。
確かに、知らないところに行くときには頼りになるのですが、現実問題として「知らないところに行く」という機会があまりない僕の生活では、あまりメリットがないような気もしました。
けっこう値段も高いですし。

なぜか、僕の知り合いでカーナビをつけている人は、あんまりカーナビと仲が良くない人が多いみたいで、同じような光景を何度も目にしました。
「そんなら、電源切ればいいのに…」と内心思っていたんですが、このエッセイを読んで、なんとなく合点がいったのです。

そうか、カーナビっていうのは、「話し相手」って面もあるのだなあ、って。
人間、聴いてないつもりでも、BGMにラジオが流れていたりすればなんとなく落ち着くものですし(もちろん、ウルサイと思うこともあるけど)、入院中の患者さんは、なんとなく人の声が聴きたい、という理由でテレビを点けていたりするようです。

カーナビには、本来の用途のほかに、そういう運転者の孤独や苛立ちを癒す効果があるのかもしれませんね。

今、思いついたのですが、カーナビに「方向音痴な彼女モード」とかつけたらいいんじゃないかなあ。
「あっ、ゴメン、今のところ右折だった…間違えちゃった!」
「渋滞にまきこまれちゃった…私、もう眠い…」
これだと、運転していても、ドライバーはツッコミどころ満載で寂しくないはずです。

結構売れるような気が…しないですね、やっぱり。


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