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2003年06月23日(月) ■ |
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捏造された「戦争のヒロイン」 |
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朝日新聞の記事より。
【「戦争のヒロイン」は国防総省がつくった偶像だったのでは──。イラク戦争で捕虜になった後に救出された米陸軍上等兵ジェシカ・リンチさん(20)の「物語」に、欧米メディアが疑惑の目を向けている。大量破壊兵器の情報操作疑惑とあいまって、ブッシュ政権の説明には疑いの声が強まる一方だ。
リンチさんは3月23日にイラク南部で捕虜になった。米政府筋は当時、「多くのイラク兵を倒した」「敵の銃弾を浴びて重体」「イラク側はまともな治療をしていない」など米側の武勇談とイラク側の非道さを強調。リンチさんは瞬く間にヒロインに祭り上げられた。
米特殊部隊が4月2日に収容先の病院から救出した際も、自動小銃で武装した部隊が突入し、リンチさんをヘリコプターで搬送する米軍映像が繰り返し放映され、緊迫感をかき立てた。
しかし英BBCテレビは、▽リンチさんの体には銃創がなかった▽イラク側は可能な限りの治療をした▽病院にイラク兵は1人もいなかったので救出劇に危険はなかったと報道。「国防総省がハリウッド映画みたいに演出した」と批判した。
ワシントン・ポスト紙も17日、リンチさん周辺や国防総省、イラクの病院関係者ら数十人に取材した特集を掲載。リンチさんの部隊は道に迷った末にイラク軍と遭遇し、慌てて交戦したため味方の車両同士が衝突▽この事故でリンチさんは重傷を負った▽銃の故障でリンチさんは1発も発砲していないと指摘。軍情報に基づく3月時点の同紙の報道を訂正した。
国防総省は「事実に基づいておらず、ばかげている」(ホイットマン報道官)と反論している。しかし、民主党の大統領候補の一人、クーセニッチ下院議員は同省に資料公開を要求。「リンチさんはブッシュ政権による物語のシンボルにされた」と批判する評論家も増えている。
リンチさんは、いまも陸軍の病院に入院中で、国防総省は「捕虜になってから救出されるまでの記憶は残っていない」としている。 】
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この救出劇は、アメリカ国内では「美談」として語られ、リンチさんの救出劇は映画化がすすめられ、半生記には高額のギャラが提示されていたとか。 僕は、この救出劇を聞いたとき、映画「プライベート・ライアン」を思い出したのですが、ひょっとしたら、国防総省の人も、あの映画をイメージしていたのかもしれませんね。 (ちなみに「プライベート・ライアン」はフィクションです。でも、モデルとなった話は存在します) しかし、これが「捏造された美談」だとして、「そんな捏造をするなんてヒドイ!」と素直に怒りを感じるかといわれると、僕はあんまりそうでもないのですが。 アメリカはイラクと「戦争」をしていました。 戦時中だったら、相手が敵だったら何をしてもいい、というわけではないでしょうけど、イラクと戦争していたアメリカ国民にとって、正確な報道よりもプロパガンダのほうが意味があるのではないかなあ、と。 極論なのですが、「戦争に勝つためなら、やれることはなんでもやる」という姿勢は、けっして異常ではないと思います。これらの「救出劇」によって、国民の戦意高揚がはかれるのなら、無人の病院に武装集団が「突入」してみせたり、遭遇戦で銃の故障で捕虜になり、国際法にのっとった捕虜としての扱いを受けていたとしても、虐待されていたかのように国民にイメージさせることは、「戦略」として間違ってはいません。 「イラクでは、捕虜はキチンと扱われている」とか、味方同士の事故で捕虜になったなんて「正確な情報」は、国民の対イラク感情を改善してしまい、戦争相手への「憎しみ」を薄れさせる効果しかないでしょうから。 むしろ、化学兵器や核兵器の使用に比べたら、かわいいものじゃないかなあ、という気もするくらいで。
これが問題になるアメリカという国は、たぶん、イラクとの戦争において、圧倒的に余裕があったということなんでしょうね。自己批判をしてみせるくらいの余裕。 本当に、やるかやられるか、という状態の戦争であれば、「勝つために、生き残るためには仕方なかった」と言われれば、誰も、そのプロパガンダを否定できないはずなのに。 「やらせ」ができるくらいの余裕のある戦争。劇場の中の戦争。 もちろん、いくら戦力差が大きくても、前線の兵士たちにとっては、辛い体験だったでしょうが。
メディアも、この行為を批判してはいるものの、彼女を英雄にする報道を最初に疑いもせずに行ったのも、実は彼らなのです。 その場で検証もせずに(ちゃんと調べて報道する気があれば、彼女が救出された時点で、もう少し正確な情報が得られていたはず)、政府と軍はウソツキ、とか言ってもなあ… 戦争に勝つためには、誰だって嘘くらいつく、という想像ができないの? このリンチさんの「やらせ」は、たいした問題じゃない。これは、小さな嘘。 むしろ、戦争の原因であった「化学兵器」や「大量破壊兵器」の有無やその証拠について検証していくことのほうが、大事なのではないでしょうか? もし、そういう兵器の存在が「捏造」であったとしたら、それは、ヒロインの捏造どころではない、この戦争自体の大義が問われる問題だと思いますから。 僕の個人的な見解としては、世界で最も大量破壊兵器を有している国が「お前は持つな」とか言うのは筋違いのような気もするんですけどね。 本来は、アメリカにだって在ってはいけないもの、じゃないの? あの状況で、戦争をする以外の解決法はなかったの?
僕たちは自分の世界を自分の目で見られる以上の広い範囲で知ることができるようになったけれど、それは、あくまでもメディアという「他人の眼」を通してのもの。 見せかたしだいでは、どんな虚構も「事実」になりうるのです。 最後にひとつだけ。 僕はこの記事を読んで、捨てたもんじゃないなあ、と感じた部分がありました。 それは、「イラク側は可能な限りの治療をした」というところ(これだって100%真実じゃないかもしれないけどさ)。 当たり前だけど、イラク人にだって、戦時下でも敵の負傷兵の命を救うために頑張った人たちがいるのです。 それは、忘れてはならないことだと思います。
戦争を望んだのは、リンチ上等兵でも、彼女を助けようとした人々でもないはずなのに。
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