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2003年04月25日(金)
ある人気作家が、再出発時に選んだ「原点」。


「笑ってる場合」(原田宗典著・集英社文庫)より抜粋。

(作家・原田宗典さんが、半年間の休養後に決意したこと)

【再出発なんだから、今までとはやり方もガラリと変えたいッ。そう思って、十数年使い続けてきたワープロを捨て、原稿用紙に筆ペンで書く前時代的なスタイルを選んだりもした。一大決心だったが、今はこうして手書きで文章を綴ることに喜びすら感じている。】

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 原田宗典さんは、現在44歳。これを書かれた正式な時期はわからなかったのですが、人気作家となり、「締め切りに追われて本当に書きたいことが書けなくなった」ために、30代の後半に、半年間の休筆をされています。現在も手書きで原稿を書かれているかどうかは、わからないんですが。

 僕が最初にワープロというのを使い始めたのは、たぶん15年前くらいだったと思います。
 とはいえ、当時の機械は漢字変換も単漢字(漢字一文字単位)のみで、あまりの変換機能の頭の悪さに、みんな泣きそうになりながら作業していました。
 「手書きのほうが圧倒的に速い。でも、綺麗にするためにワープロを使う」そんな時代。
 大学生になって、レポートを書くようになったころ、同級生の中にもポツリポツリとワープロ(パソコン含む)で、レポートを書く人たちが出てきました。
 そのレポートは読みやすくて、先生たちも喜んでいたようです。
 今となっては、ワープロだと、他人のレポートを簡単にコピーできるもんなあ…と嘆く先生が多くなりましたが。実際、手書きだと丸写しする作業でも勉強になる部分もありますし。
 例えば、懐かしの「漢字100字」が、もしワープロ可になったら、どんなにラクなことでしょう。
 まあ、さすがにそんなことはないだろうけれど。

 十数年前からワープロを使われていたということは、原田さんのワープロデビューはけっして作家としては遅くはないはずです。慣れれば、ワープロというのはものすごく便利なもので、字が読みやすいだけではなく間違いをすぐ直せるとか、漢字を忘れても変換でなんとかなることが多いとか、レイアウトも簡単に変更できるとか、データが原稿用紙ほど荷物にならないとか、とにかくものすごくメリットがあるのに。

 そこを敢えて手書きにしたのが、きっと、原田さんの原点回帰だったんでしょうね。
 しかし、これだけみんなワープロを使っていると、作家の生原稿とか手紙の類は、将来的にはどんどん無くなっていくんだろうなあ、と僕は思います。
 「これが村上春樹がが生前にワープロで印刷した原稿だ!」とか言われても、
「ああ、そう」というような感じしかしないと思うなあ。全然ありがたくない。
 しかしながら、筆と硯じゃなくて筆ペンだったりするところが、原田さんの捨てきれない現代性なのかもしれませんね。