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2003年04月23日(水)
「外科医は、すぐに切りたがる」という思い込み。


「私がアナウンサー」(菊間千乃著・文春文庫)より。

【外科の先生は、すぐに切りたがる。つまりメスを入れたがる、そんな話を聞いたことがあった。ところが私の担当の医師に聞くと、それは間違いでメスを入れないにこしたことはないというのだ。
「体にメスを入れるというのは、普通に考えても相当のストレスを体に与えること。人間の自然治癒力に任せられるのであれば、いつでもそうしたいと僕たちは思っている」。」
 また、一生残ってしまうだろう傷についても、「まだ若いし女性だから」とかなり心配してくださった。】

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 1998年にテレビ番組の生放送中に5階建てのビルから転落し、腰椎骨折で闘病生活ののちに復帰された、菊間千乃(きくま・ゆきの)アナウンサーが、腰椎骨折に対して手術をするべきかどうかの判断を迫られた際に、担当の整形外科の先生に対する印象を書いた部分です。

 僕は外科医ではありませんが、もちろん同じ医者ですから外科の先生とのつきあいもありますし、患者さんの手術を依頼することもあります。
 この「外科の先生は、すぐに切りたがる」というイメージは、けっこう世間に浸透しているみたいなんですが、少なくとも僕の知っている外科の先生たちは(もちろん、僕の同世代の若手かちょっと上くらいの人が多いのですが)、「手術は、しないで済むのなら、なるべくやらないほうがいい」という考え方を持っている人が殆ど全員と言っていいと思います。
 理由は、人間の体にメスを入れると行為には、ただ「お腹を開ける」だけでも、感染や痛み、傷が残ることや術後の癒着といった、さまざまなリスクがあることを外科の先生たちは体験してきているからです。
 手術というのは、外科医にとってはまさに腕の見せ所ではあるのですが、大きなコンサートが歌手一人ではできず、準備や後片付けが必要であるように、大きな手術では術前の準備や術後の全身管理など、実際に手術室でメスを持っている時間以外の要素が重要になってきますし。外科医の仕事場は、手術室の中だけではないわけで。
 ほんとうに「すぐ切りたがる医者」なんていうのは、今ではあまりいない、というのが僕の実感なのです。
 とくに、優秀な医者は、手術の恐さを知っている人ばかりです。
 切らなくても済むのなら切りたくないというのが大部分の医者の良心であり、本音のはず。
 でも、どうしても必要不可欠なときは慎重かつ大胆に。

 それでも内科からすると、手術という選択肢を持っている外科は羨ましいなあ、と思うことも多いけれど。