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2003年04月03日(木)
オセロゲームの落日。


共同通信の記事より。

【「オセロ」ゲームなどの販売で知られる老舗の玩具卸業ツクダは3日、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。民間信用調査会社の帝国データバンクによると、負債総額は約80億円。
 ツクダは1935年に創業。60年代に大ヒットした「ウインキー(ダッコちゃん)」や、「ケロヨン・シリーズ」などのヒット商品を販売したほか、玩具製造子会社の「ツクダオリジナル」(現パルボックス)が「オセロ」や「ルービックキューブ」など、一大ブームを起こしたゲーム商品を相次いで売り出した。
 しかし、個人消費の冷え込みや玩具市場の競争激化で売り上げが伸び悩んだ上、複数の得意先の経営破たんに伴う債権焦げ付きなどで資金繰りが悪化し、経営難に陥っていた。】

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 ツクダが「ダッコちゃん」の販売を行っていたというのは、僕は全然知らなかったのですが。
 僕にとっては(たぶん、この会社の名前を知っている人の大部分が同じだと思うんだけど)ツクダ=オセロゲーム、なんですよね。
 ある会社の営業の社員が、得意先でいつも将棋や囲碁の相手をさせられて時間をとられてしまうので、「短時間で終わって、ルールが簡単な対戦型ゲームを!」ということで1973年に考案したといわれるこのオセロゲームなのですが、僕が子供のころは、子供のいる家には、ほぼ一家に一台くらい、緑の盤と円形で平べったい、両面が黒と白に塗られたコマのこのゲームがあったような気がします。
 あの、コマをひっくり返すときのパタパタという感覚が、気持ちよかったんですよね。
 ルールは簡単だし、展開もドラマチックで。最初は一回ごとに「一番多くひっくり返せるところ」に置いていったのですが、そのうち「角をとること」の重要性に目覚め、そしてさらに高度な戦略を…というのが当時の流れでした。
 まあ、凝り性の人は、ルールの単純さに飽き足らず、そのうち将棋に走ってしまったりするのですが。
 そういえば、コンピューターの黎明期に「対戦型オセロ」は、アルゴリズムの構築に多大な役割を果たしました。チェスや将棋よりルールが簡単で、「次の手を読む」ことが必要なオセロゲームは、プログラムのレベルを量るのに最適だったのです。
 現在では、最強のコンピューターオセロには、人間のチャンピオンも勝てなくなってしまっているそうですが。

 ところで、僕はオセロゲームについて印象深い記憶があるのです。
 それは、大学一年のころ、実習で、とある精神病院に行ったときのこと。
 そこに入院している患者さんに、オセロゲームの達人がいました。
 もともと精神発達遅滞があり、言葉にも障害を持った方だったのですが。
 僕も当時は腕に覚えがありましたから、何度も挑戦したのですが、結局一度も勝てず、盤面を真っ黒にされたことすらありました。
 その日、僕は帰りのバスの中で考えました。
「この人は、どういう思考過程でこのオセロというゲームを認識して、こんなに強くなったんだろうか?」と。
 僕たちが日頃思い込んでいる「頭の良さ』とか「正常さ」なんてものは、実際はものすごく不安定なものなのかもしれませんね。

 たぶん、ツクダが倒産してもオセロゲームは生き続けるでしょう。
 でも、コンピューターゲームの隆盛で、ゲームもディスプレイ上のものとなってしまい、あの白黒両面のコマをひっくり返す感覚が無くなっていくのは、ちょっと寂しい気もします。