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2002年12月13日(金) ■ |
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不完全自殺防止マニュアル。 |
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読売新聞の記事より。
【景気低迷などを背景に中高年男性の自殺が急増しているのを受け、厚生労働省は来年度、自殺前の兆候や防止策を具体的に盛り込んだ「自殺防止マニュアル」(仮称)を作成する方針を決めた。厚労相の私的諮問機関「自殺防止対策有識者懇談会」が来週にも同相に報告する提言の内容に沿って作成され、全国の自治体や医師会、経済団体などに配布される予定だ。 提言は、家族など周囲の人が自殺を考えている人のサインに早く気付き、医師やカウンセラーなどに相談するといった対応が必要と指摘。「疲れやすい」「飲酒量が増える」「胃の不快感」などを具体的なサインとしてあげている。 また、自殺の原因は健康や家庭の悩み、経済苦などによる複合的なものが多いことから、精神医学だけでなく、経済、教育など様々な分野の連携が必要とした。マニュアルには、こうした内容が盛り込まれる見通しだ。】
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成人の死因でいちばん多いものは、周知のとおり、癌によるものです。 では、2番目は?
実は、成人の死因の2番目は、「自殺」なのです。 自殺で亡くなられた人の数は、ここ4年間ずっと、3万人を超えています。 ちなみに、交通事故によって亡くなられた方は、1万人くらいで推移しているのです。 近年の特徴は、中高年の自殺者が急増していること。
僕が大学に入学してすぐの頃、約10年前に「完全自殺マニュアル」(鶴見済著 ・太田出版)という本が大ベストセラーになりました。この本には、さまざまな自殺の方法と「どうやったら楽に死ねるか」ということが、具体例を挙げて書いてあったのです。 たとえば、睡眠薬だったらこれを何錠とか、飛び降りだったら、どのくらいの高さから、とか。 当時は、有害図書に指定されもしましたし(たぶん、一部の地域では今でも)、「これを読んで自殺した」とされる人のことが報道されたりもしたのです。 でも、僕たちの間では、この本は「手首の解剖のイラストが気持ち悪い」という程度の読まれ方で、「これ読んで死ぬ人なんて、いるわけないじゃん」というのが、周囲の人の反応だったと思います。 著者の鶴見氏は「死ぬ方法を持っていたほうが、ラクに生きられる場合だってあるだろう?」というようなことを前書きに書かれていましたし。 たぶん、当時の僕たちは、それを笑い飛ばせるくらい「健康」だったのでしょう。
しかし、実際の大部分の自殺者は、中高年の人々で、その原因は、若者のような、いわゆる「人生の悩み」ではなくて、「病苦」とか「貧困」である場合がほとんどです。 若者の自殺は、ドラマティックで、中高年層に比べて頻度が少ないためにメディアで派手にとりあげられますが、実際は、自ら命を絶つ人の多くは、「自殺…したくもなるよな…」と周囲の人も考え込んでしまうような状況の中高年層。
「死ぬなんて、逃げることだ」とか、言われますが、はたしてそれだけで済ませてしまっていいのかどうか。少なくとも鬱病の人には、励ますのではなく、受け入れてあげることが大事、だと言われています。逃げること有益なことだってあるでしょうし、その逃げ方の問題なのでは。 人間にとって、辛いこと・悲しいことがあると鬱になっていくのは、暑いと汗が出ることと同じくらいの「当たり前の反応」なんですが。 僕はもちろん、自殺を積極的に肯定するつもりまありませんが、たぶん、どんなに「いい社会」になっても、自殺する人がいない社会なんていうのは、ありえないのでしょう。 それは、30年生きてみての実感。 悲しいことに、死ぬことが自己実現だという気持ちを振り払えない人も世の中にはいるのです。 でも、死ななくてすんだ人も、たくさんいるはずです。
実際のところは「まわりの人がなんとかすれば良かったのに」などという意見に対しても「死を求める人とのコミュニケーション」というのが、どんなに己の心身を磨り減らずかなんていうのは、体験した人間にしかわからない。 もちろん、医者とくに精神科医・カウンセラーなどは、それを生業としているのですから、そこから逃げるわけにはいかないでしょうけれど、一般の家族や友人にとっては、「俺だって自分が生きていくのに精一杯で、お前のことに付き合ってはいられないんだ!」という気持ちがあって当然だと思うのです。
以下、不完全自殺防止マニュアル。社会が変わっていくのを待つには、あまりにも時間が無さすぎるから。
<周囲の方へ>
「死にたい」という思考は、一過性のものでなければ、本人の「気の持ちよう」だけでは解決しない場合も多いです。「本人の精神力の問題」ではなくて、病的なものの可能性もありますので、専門家に相談してください。 せめて、身の回りの人だけでも、なるべく死を選ばないですむようにしてあげましょう。
<死にたいと思われている方へ> その思考は、一種の病気であり、あなたが弱いわけでも、悪いわけではありません。 ただし、急性期には、誰かに相談したり、ネットに書き込んだりしても解決できない場合がほとんどですから、勇気を持って、精神科医やカウンセラーに相談してください。 誰でも、そのような気持ちに支配されることは、ありうることですし、珍しいことでも、恥ずかしいことでもないですから。 あなたはたぶん真面目な人でしょうし、他人に頼るのは嫌だと思われるかもしれませんが、病気が重くなってからでは、かえって大事な人に重い負担を強いることだってありえますから。 〜〜〜〜〜〜〜
しかし、「疲れやすい」「飲酒量が増える」「胃の不快感」などを具体的なサインとするならば、僕も含めて「予備軍」は、ものすごくたくさんいることになりますね。
それはちょっと行き過ぎなのでは、と最後に書こうかと思ったんだけど、 現実は、予備軍だらけなのかもしれないなあ、とも感じています。
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