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2002年05月31日(金) ■ |
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2002年5月31日。 |
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毎日新聞の記事より。
【肺がんなどを告知され、昨年9月に病院で自殺した男性患者(当時55歳)の母親(73)が、「医師の心ない言葉が自殺への大きな要因になった。がん告知に要求される配慮義務に欠けていた」などとして、埼玉県川越市大袋新田の医療法人「武蔵野総合病院」(小室万里理事長)と主治医2人を相手取り、慰謝料1000万円を求める損害賠償訴訟をさいたま地裁川越支部に起こしていたことが、30日分かった。医師と家族は、告知の是非をめぐって十分な合意形成ができておらず、一般化しつつある告知のあり方を問う裁判になりそうだ。
訴状によると、男性は同病院に昨年9月6日、入院し、当日の検査で肺などのがんと診断された。主治医は家族の意向を受けて告知しないと約束したが、病状が進行し、転院の必要性などから別の主治医が告知が必要と判断した。同月20日、家族同伴のもと告知が行われたが、医療技術の進歩を挙げて励まそうとする家族の言葉に対し、医師は「(治療して大丈夫なのは)そんなのはごく一部だよ」などと、その場で否定したという。
告知後、「死ぬのは怖くないが、やりたいことはたくさんある。足が動かなくなると何もできない」などの内容で、死ぬこと以上に体が動けなくなることへの恐怖心を示していた男性に対し、医師は告知の3日後に「車いすの生活になり歩けなくなっても、死ぬよりはましだろう」などと配慮に欠ける言葉を掛けたという。男性は同月25日に病院で、点滴のフックに電気コードをかけて首つり自殺した。
原告の弁護士は「希望をもたせるような告知とはほど遠く、無神経な発言は、がん告知や告知後の配慮義務に違反している」と話している。また、男性の弟は「医師の言葉に誠意のなさを幾度も感じた。提訴で警鐘を鳴らしたい」と話している。
▽医療過誤訴訟を手がける埼玉医療問題弁護団の赤松岳弁護士 患者の自己決定権が認められ、医療現場は告知の方向に大きく動いている。しかし、告知の方法とその後のフォローをめぐる裁判はおそらく全国で初めて。告知のあり方が注目されると、現場の医師が告知自体に消極的になる可能性があり、その点は心配だ。
▽星野一正・京都大学名誉教授(生命倫理専攻)の話 訴状を見たが、医師の言動は「患者中心の医療の倫理の理論」に基づくインフォームド・コンセントに違反していた。家族が(告知しないよう)真剣に頼んでいるのだから、医師は告知を控えるべきであった。インフォームド・コンセントについて論じている米国の判例は「事実の開示に調和する程度の慎重さが必要である」と説明している。】
〜〜〜〜〜〜〜 長い引用ですみません。 それにしても『告知』の問題は難しいこと。正しいかどうかなんて、一概に決め付けられるものではありません。まさにケースバイケース、だと思うのですが。この記事を読んでいると、医者が言っていることはすべて「事実」であるわけです、おそらく。患者が癌であること、治療してよくなるような状況ではないこと。「動けなくなっても、死ぬよりはましだろう」というのも、言葉自体はひどいですが、これが「もし歩けなくなっても、生きていられればいいこともたくさんありますよ」という言葉だったらどうでしょう? こういうニュアンスのすりかえは、メディアの記事では日常茶飯事に行われていることなので。 わかってもらいたいのは、じゃあ、「大丈夫ですよ、治りますよ」と末期がんのひとに言い続けることが、果たしていいことなのか?ということ。最近の医療界では、少なくとも治療を受けてもらうときには、告知をするのが当たり前という風潮になっているのです。何故かと言うと、「なんかわけのわからないものがあるんだけど、肺を片方取りましょうか」とか「髪の毛が抜けるような強い薬を使いましょうか」というような説明で納得できる患者さんがいるわけないし、やはり「癌」だとわかているから治療を受けなければならないという覚悟ができる部分もあると思われるからです。 もちろん、患者さんの心は乱れますし、他人に当たったり、鬱状態になられる方もおられます。でも、最終的には受け入れて生きていこうと思われる方が大部分なのです。 もちろん、治療不可能な場合にはご本人には伏せておく場合も多いのですが、それでも自分の余命を知りたいと言われる方は多くなってきている印象があります。
確かに、この医師と家族の間には、意思の疎通がうまくいってないところがあったんだろうなあ、とは思うけれど、「希望のもてない病状」に対して「希望のもてる告知」をすることがいいことなのか。 むしろ、事実だけを淡々と説明するような内容のほうが良いのではないか、と思うことも多いのです。感性がひとりひとり異なる患者さんに、すべて拍手を送られるような万人向けの名演技者になるという技術と、少なくとも「嘘はついていない」という人間のどちらがより難易度が高く、リスクが伴わないかを考えれば。
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