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2002年05月28日(火) ■ |
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2002年5月28日。 |
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「男は語る〜アガワと12人の男たち(文春文庫)」より、阿川佐和子さんと椎名誠さん(作家)との対談の一部。
(家族にとって、自分のことが小説に書かれるというのは、どんな感じなのかという話題になって。ちなみに、阿川佐和子さんの父親は作家の阿川弘之氏。椎名さんには息子との交流を描いた「岳物語」という作品があります)
【椎名「オレも息子のことを書いたことがあって、愛情をこめ、友情をこめ、男同士のつきあいというようなことで書いたつもりなんですが、あるときまわりの人たちにいわれたらしく、『もうオレのことは書くな』といいましてね。涙を浮かべて抗議するんですよ。悪いことしちゃったと思って、それからは息子のことは書いていません。中学の入学のときまでです、書いたのは。 息子のことは2冊書いたのですけれど、一冊目のときにサインして、『これはお前のことを書いた本だ』と渡したのです。『そうか』なんていって、最初の1ページ読んだだけでポンと放り投げられちゃった。うちのガキらしい反応だと思ったけれど、うれしいようなさびしいような複雑な気持でしたね。 しばらくして続刊を書いてまたあげたら、『まだこんなもの書いているのか』って怒り出してね。いつのまにか一冊目を読んでいたらしい。『オレの悪口ばかり書いて』という。飯を5回も食うとか、やれ糞をたくさんするとか、悪口じゃないんだけれども、女の子たちが読んで冷やかすんでしょうね。」
〜〜〜〜〜〜 椎名誠さんの「岳物語」は、父親と息子のややぶっきらぼうながらも温かい交流を描いた名作です。しかしながら、椎名さんの息子さんの気持も、よくわかります。だいたい、自分の親に「お前のことを書いた本だ」なんてサインとかして渡されたら、困惑もするでしょうし、少年時代であればなおさら、気恥ずかしい思いもするでしょう。1ページ読んだだけで放り投げたくなるよなあ、いや、とりあえず受け取るだけでも偉いような気すらします。
それに、大飯食らいだとか、便の量とか、こういうことを衒いもなく書けるのが椎名さんの文章の魅力だと読者としては思うのですが、子供からしたら、なんでそんなこと書くんだよ、身内の恥で商売しやがって!ときっと思ったに違いありません。それでまわりから冷やかされたら、嫌ですよね。
作家の子供というのも、大変です、ほんとに。 まわりから見たら、有名な小説家かもしれないけれど、子供にとっては、ただの父親でしかないわけで。 自分の親が自分のことを世間に向かって大公開しているなんて、子供にとっては、辛いとしかいいようがない。 阿川さんも「子供の頃は嫌だったけど、大人になって、少しはわかるような気はします」と答えておられますが、誰も傷つけずにいい作品を書くっていうのは、難しいことなんでしょうね、実際。 フィクションであってすら、読者はモデルを探したがるものですし。
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